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第21回 風水師たちを魅了した霊峰 鶏龍山 森正哲央

第21回 風水師たちを魅了した霊峰 鶏龍山 森正哲央

第21回 風水師たちを魅了した霊峰 鶏龍山

今回は優れた地勢と景観で多くの風水師たちを魅了した朝鮮を代表する霊峰、鶏龍山を紹介したい。標高、規模ともに、それほど高くも、大きくもないが、東鶴寺渓谷を囲むように俊峰がつらなり、絶景や名所がコンパクトにギュッとつまって、魅力を放っている。

忠清南道の公州市街から10キロほど南に位置し、新羅時代には“新羅五岳”の一つとして祭祀が、朝鮮時代には妙香山、智異山とともに山神祭が執り行われた。現在でも毎年春に“鶏龍山山神祭”が開催され、山岳信仰の歴史を今に伝えている。風水から見て特に優れた地勢とされ、戦乱や騒乱を避けることのできる桃源郷“十勝地”と考えられてきた。

李朝時代に流布した預言書『鄭鑑録』には、李朝滅亡後に鄭氏が鶏龍山麓で王朝を開くと記されている。実際、李朝初期には、南麓の新都内(現・鶏龍市)で新都市の建設が立案されたこともある。近代以降も、新都内一帯では、『鄭鑑録』を信奉する多くの宗教団体が盛んに活動していたが、1980年代に入ると強制的に排除された。現在では北からの南侵に備え、韓国軍の陸海空三軍統合司令部が置かれている。そのため、基地を見おろす南側の山域は立入禁止となっている。

古くは西岳、鶏藍山、翁山、中岳などと称されたが、風水の大家・無学大師(1327~1405)が、鋸歯のように連なる秀峰が鶏冠をかぶった龍に似ているとして、鶏龍山と名づけたといわれる。主峰の天皇峰(845m)を中心に、サルゲ峰、神仙峰、将軍峰、観音峰、三仏峰、連天峰、道徳峰などの峰々が馬蹄型に並び、東麓に東鶴寺(尼寺)、北西に甲寺、南西に新元寺、南東に龍華寺の古刹がある。1968年に国立公園に指定されているが、これは70年の雪岳山や漢拏山よりも早く、3番目にあたる。鶏龍山の核心部は公州側に属するが、むしろ大田からのアクセスが便利で、大田市民にとって格好の山岳型自然公園となっている。今回は公州市反浦面鶴峰里の東鶴寺駐車場から三仏峰、観音峰へ登った。

東鶴寺駐車場へは、大田市内の地下鉄顕忠院駅でバスに乗換え10分余り。岩肌を晒した険しい岩稜に囲まれ、龍水川に沿って旅館や食堂が立ち並ぶ。一帯が最もにぎわうのは春で、鶏龍山入口の車道は桜でピンクに染まり、食堂は座る場所がないほど混み合うそうだ。鶴峰里を起点とした登山路は主に3つあり、東鶴寺渓谷コースは石が多く傾斜がきついと聞いたので、歩きやすいチョンチョン谷コースを行くことにした。第3鶴峰橋の手前から東鶴寺の参道と分かれ、小道に入る。日曜日ということもあり、正月に北漢山へ登ったときに匹敵する人出がある。探訪支援所の前で職員が、「アイゼンをつけてください」と声をかけていた。

クンペ峠(557m)まではヤマボウシ、アカシデ、クリなどの樹林帯をゆるやかに約2.9キロ、進むにつれ雪もだんだん深くなる。クンペ峠を過ぎたら上元庵までは約600m。男妹塔峠(590m)を越え、途中で東鶴寺からの道と合流する。清涼寺址に建つ上元庵には国宝に指定された五層と七層の石塔が仲良く並び、オヌイ塔(オヌイとは男女の兄弟)、男妹塔、双塔と呼ばれる。

上元庵から石段を10分登ると三仏峰峠で、さらに息を切らして鉄段を直登すると三仏峰の山頂につく。連天峰、観音峰、サルゲ峰、天皇峰など鶏龍山の峻峰が周りを囲み、低山ながら迫力は十分。公州側の平野には白く凍った鶏龍山貯水池が望めた。三仏峰と呼ばれるのは三人の仏様に似ているためだ。三仏峰から観音峰までは、南斜面が切り立った自然城稜と呼ばれる高度感のある細い尾根で、階段や手摺がよく整備されているが、滑落しないよう慎重に歩く。最後に長い鉄段をクリアすると観音峰で、山頂の観音亭で大休止した。鶴峰里へと流れる東鶴寺渓谷の川筋に、これから向かう東鶴寺の屋根瓦が確認できた。

5分下の観音峰峠から尾根と別れて、東鶴寺渓谷へ下る。観音峰峠より先、主峰の天皇峰へ続く稜線は軍事上の理由で立入禁止のためだ。石段を下っていくと、約50分で凍りついた隠仙瀑布を横に見る。滝を過ぎると清流沿いの緩やかな道となる。尋牛精舎への分岐を過ぎ、香牙橋をわたると東鶴寺が現れる。東鶴寺は、新羅時代の654年に上願祖師によって創建された。最初、規模は小さかったが、懐義和尚らによって拡張され、境内には三隠閣、粛慕殿、東鶴祠など歴史好きにとっては見逃せない由緒ある建物がある。

東鶴寺から駐車場までは1.5キロ、大きなプラタナスの並木道が続く。大田市内に戻る途中、韓国を代表する温泉、儒城温泉で汗を流すのもおすすめ。儒城温泉へは、東鶴寺駐車場から107番バスで20分、儒城温泉駅で下車し徒歩10分ほど。


●アクセス(バス)
・顕忠院駅~東鶴寺  107番バス乗車。12分所要
・東鶴寺~儒城温泉駅 107番バス乗車。 20分所要。1650ウォン

「2016年1月初掲」

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