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第476回 事実上の国家元首スーチー顧問の評価(下)  直井謙二

第476回 事実上の国家元首スーチー顧問の評価(下)  直井謙二

第476回 事実上の国家元首スーチー顧問の評価(下)

コロニアル風の豪邸の応接室でインタビューの支度を整え待っていると民族衣装に身を包みスーチー氏が現れた(写真)。


スーチー氏は笑顔でCNNのT支局長と握手を交わし椅子に腰かけた。筆者がインタビュー席に先に座るとスーチー氏はなぜCNNが先ではないのかと怪訝な顔をした。するとT支局長は言葉を選びながら先に筆者のインタビューに応じるようスーチー氏に要請した。いぶかうスーチー氏に「欧米系の報道機関だけでなくアジアの報道機関も大切にすべきだ。ミャンマーはアジアの国だ」と注文を付けた。スーチー氏は「それは理解できるが、今は言葉一つで国が変わる時で微妙な英語の表現を理解してくれる欧米系の報道機関に頼りがちだ」と答えた。「だからこそ英語力の劣るアジアの報道機関には誤解が生じないよう何度もインタビューに応じるべきだ」と言おうと思ったが、気分を悪くしてインタビューを断られるとまずいので黙っていた。

質問は少数民族問題に絞った。ミャンマーには130以上の少数民族がいるにもかかわらずスーチー氏は少数民族の対応についてあまり語ってこなかったからだ。良い回答は得られなかったが、それは筆者の英語力の問題だけではないようだった。

イギリスはアジアの植民地支配にアジア人同士の衝突を利用してきた歴史がある。例えばミャンマーではビルマ族とカレン族、インドではヒンズー教徒とイスラム教徒を意識的に衝突させ支配力を維持した。その結果、パキスタンとインドでは領有権を巡り対立するカシミール問題で今なお紛争が続いている。シンハリ族の住むスリランカでは紅茶の栽培を行うため栽培方法を熟知しているタミル族を入植させたことで最近まで内戦が続いていた。イギリスは労働力としてイスラム教徒であるロヒンギャ族を仏教国ビルマに入植させたため、難民問題が現在も続いている。議会制民主主義を生んだイギリスだが、アジアに自ら残した民族衝突の処理については口を拭っている。

イギリスで教育を受けたスーチー氏が民主主義の実現には能力を発揮しても少数民族問題で手を焼くのも理解できる。一方でイギリスに留学しイギリス人と結婚したスーチー氏の軍政批判を聴いていると軍人は民主教育を受けていないので民主主義が理解できないとも受け取れる発言を耳にしていた。軍は、それならスーチー氏が崇拝する宗主国イギリスが残した民族問題を解決して見せろと迫っているようにも見えるのだった。

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