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中国は経済悪化の中、EV生産、販売は右肩上がり-国内を対抗して海外企業も投資拡大へ(上) 日暮高則

中国は経済悪化の中、EV生産、販売は右肩上がり-国内を対抗して海外企業も投資拡大へ(上) 日暮高則

中国は経済悪化の中、EV生産、販売は右肩上がり-国内を対抗して海外企業も投資拡大へ(上)

新型コロナウイルスの蔓延防止のために取られた「ゼロコロナ政策」などの影響で、今年の中国経済は低迷状態にある。ただ、そんな中にあっても自動車の売上げは好調。特にEV(電気自動車)への人気はうなぎ上りで、今年の販売数量は昨年の2倍の600万台に達しそうだという。これまでEVと言えば、米企業のテスラ社製が圧倒的なシェアを誇り、事実上テスラがEVの代名詞になっていた。ところが、今年になって国内企業「比亜迪汽車(BYD)」「上汽通用五菱」などの国産EVが幅を利かせてくるようになった。それは、2030年までに炭素排出量をピークアウトし、60年までにカーボンニュートラルを実現させるという党中央・政府の方針が示されたことが大きな理由。国内企業の自動車生産が一気にEVへシフトし、今や中国は世界最大のEV販売市場になった。今後もこのトレンドが強まると見られるため、世界各国の企業が中国市場を視野にEV生産に力を入れている。とりわけ、中国車に脅威を感じたテスラCEO(最高経営責任者)のイーロン・マスク氏は、中国当局への擦り寄りを見せ、同国の市場奪回を狙っている。

<中国EVの現状>
香港誌「亜州週刊」によれば、今年、中国でのEV販売台数は昨年の300万台の2倍の600万台に達しそうだという。一方、バイデン大統領が「環境産業」重視を掲げているにもかかわらず、米国の2021年通年販売数は63万台で、今年の見込み数は107万台程度にとどまる見通しだ。中国の販売台数は米国の5倍以上と大きくリードするほか、環境先進国の欧州、日本も遠く及ばない状態だ。また、中国の通年輸出台数も前年度比54%増の67万台になる見込み。中国全体の輸出が振るわない中、EVの伸びが大きく貢献している。

習近平主席は2020年の国連総会にオンライン参加し、「2030年までにカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量の均衡を図る)を実現する」と宣言した、これを受けて、国務院工業情報化部(省)などは同年10月27日、2035年に新車販売のすべてを電気自動車(EV)などの新エネルギー車(NEV)やハイブリッド車(HV)にするとの方針を明らかにした。国内企業もこの方針に沿うように動き出し、比亜迪(BYD)は今年4月、「ガソリン車の生産を今年3月に終了した」と発表し、「今後はEVとPHV(外部からの充電可能なハイブリットカー)の生産に集中していく」と宣言した。BYDはもともと携帯電話向けの電池メーカーであり、その後に地方の自動車会社を買収して自動車作りを始めた企業だから転換が速い。

2021年11月から今年8月までの中国でのEV車種別売り上げランキング10を見ると、一位が上汽五菱の「宏光MINIEV」(42万1230台)だ。軽四輪のこの車は、価格も3000米ドル余と手ごろであるため、「人民の代歩車(庶民の足代わり)」と呼ばれ、人気がある。ランキング2位には「Model-Y」(32万4270台)、4位に「Model-3」(19万9375台)とテスラ車が入っているが、3位の「宋PLUS新能源」(24万578台)、5位の「秦PLUS」(19万8382台)、6位の「漢」(17万5618台)、7位の「海豚(イルカ)」(12万1813台)、9位の「唐新能源」(9万5553台)、10位の「元PLUS」(9万2571台)と軒並みBYD車が並ぶ。BYDの車名の多くは中国の歴代王朝から取っており、これが中国人の優越感をくすぐるのであろうか。ちなみに、8位には、理想社の「理想ONE」(10万2968台)が食い込んでいる。

中国で製造される車種としてはセダンが多くなっている。2年前には、セダンの国内市場占有率は35-40%程度であったが、昨年は44・4%となり、今年9月には47・3%に達しており、今年末までには5割を超えるだろうと言われている。企業別のEV国内販売数で上位8位を占める中国企業は、BYD、奇瑞、五菱、吉利と4社あり、購入補助金を受けたあとの平均価格は2万1400米ドル。この4社の価格は他の国内企業産のEVより3割程度高めだという。とりわけ、セダンの売上額はBYDがダントツで、同社の「唐新能源」や理想社の「理想ONE」の価格はテスラのModel-3のそれに迫っている。をれでも、価格、性能。デザイン面で、中国企業の2つの車は海外メディアからも「中国のもっとも素晴らしいEV」という評価を得ている。

今年7月の全世界のEVメーカー別月間売上台数を見ると、BYD が16万2000台で首位となった。前月はテスラが7万6000台でトップだったが、中国企業が初めてテスラを抜いた。3位はGMの7万1000台だった。BYDが国内で高評価を得るのは一言で言えば「価格が安いにもかかわらず、物が良いから」だ。長年、先端技術の研究を重ね、それを導入してきた。特に、同社はEVの核であるバッテリー部門の開発に熱心で、「刀片電池(ブレードバッテリー)」を独自開発し、搭載した。刀片電池とはリン酸鉄リチウムイオン電池(LFP)の一種で、バッテリーのセルが刀のように薄く細長い形をしており、安全性が高く、耐用年数、航続距離が長くなったのが特徴だという。

この優位性をいち早く見抜いたのが米国の著名な投資家ウォーレン・バフェット氏で、彼の投資集団バークシャー・ハザウェイが2008年にBYDの一割の株式を取得した。その後買い増しし、2割以上の株主となった。日経新聞によると、同投資集団は今夏、利益確定のため、香港取引所で133万1000株を一株当たり約277香港ドルで売却した。それでも持ち株比率は0・57ポイント下がっただけで、依然19・92%の株式を保有しているという。BYDは国内にとどまらず、東南アジア、オ―ストラリア市場にも乗り出した。さらに、EVの本場である欧州のドイツ、フランス、ノルウェーにも進出している。欧米メーカーと十分太刀打ちできるとの確信を持ったからであろう。

<中国のEV環境の整備>
EVの普及には街中、道路上の充電設備を増やすことが欠かせない。中国充電連盟の統計によると、国内で今年6月までにさまざまな形で造られた充電施設は400万カ所、2025年までには570万カ所を設置する計画だという。米国にある充電ステーションが4万3000カ所、充電コネクターが12万台、欧州では30万台の充電コネクターがあるだけ。欧米に比べると、中国の充電対応はすこぶる充実している。しかし、亜州週刊によれば、中国の充電インフラはまだまだ不十分な状態だという。EVが普及している北京、上海、深圳、成都、重慶、広州では車数の割には充電施設が整っていない。また、車が一級行政区をまたぐと、充電コネクターの使用率が下がる。これはコネクターの設置場所の問題、規格、使用方法が統一されていないことが原因だという。

EVドライバーのだれもが心配するのが走行中の電欠(電気切れ)だ。走行中の電欠を恐れて運転者が焦りまくるので、中国では「最後の一キロ問題」などと呼ばれている。日本ではJAFなどに連絡すれば、すぐに対応してくれるが、広い国土の中国でそのサービスの享受が十分であるか疑わしい。このため、中国の業界では今、電欠問題についての対策を検討、大型充電ステーション、バッテリー交換ステーションの建設、バッテリー車の配備、太陽光などの発電装備の開発などが進められている。上海の新興メーカーの蔚来(NIO)は昨年12月18日、43万台の充電コネクターとともに、バッテリー交換ができる700カ所のバッテリー交換ステーションを設置すると発表した。

また、広州汽車の100%子会社「広汽挨安」は今年4月21日、太陽光で発電して蓄え、充電、バッテリー交換もできる、自然エネルギー、生態系を重視した一体型施設の建設を落成させた。これには有力インフラ関連企業の中国石油、南方電力、ファーウェイ(華為技術)が賛同を示し、資金協力を約束した。今後、国内に数多くの同様施設が建設される見込みだ。さらに、広汽、浙江省の「吉利」「極氪汽車」の2社やテスラなども、全国の国道、省道上の1000カ所に5分充電で300キロも走行できる「快速充電ステーション」の建設を進めている。極氪汽車はすでに「極能亮点計画」に基づき、湖北省武漢に最先端の充電設備を網羅したステーションを設けた。

それでも、民間企業の事業内では限度があろう。近い将来、EVやPHV、FCV(燃料電池自動車)というあまりガソリンに頼らない自動車や、無人運転の車が普及してくることから、中国政府は、車、道路を含む交通体系全体でインテリジェント化を進める計画を持っている。欧州などで見られるインテリジェント・トランスポーテーション・システムだ。ITを使って自動車に指示を与えたり、信号を操作したり。これだと、交通渋滞によって生じるGDP(国内総生産)の5-8%のロスが防げるという。交通関係者は「現在の非ガソリン化へのトレンドを見れば、新型自動車向けの固定施設はまだまだ不十分。交通体系全体を見通した政府の大型インフラ投資を待つしかない」と指摘している。

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