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中国は経済悪化の中、EV生産、販売は右肩上がり-国内を対抗して海外企業も投資拡大へ(下) 日暮高則

中国は経済悪化の中、EV生産、販売は右肩上がり-国内を対抗して海外企業も投資拡大へ(下) 日暮高則

中国は経済悪化の中、EV生産、販売は右肩上がり-国内を対抗して海外企業も投資拡大へ(下)

<各国の中国進出>
中国のEVなど新エネルギー車に対する自動車取得税の免税措置は今年年末が期限となっているが、政府は7月末、この措置の延長を決めた。取得税の税額は車両価格の約1割。政府は環境保護に配慮する姿勢を示すことや、EV市場のさらなる拡大を求める目的で2014年から取得税免税という思い切った措置を導入した。免税額の総額は600億元規模になると見込まれる。中国のガソリン車ではこれまで独フォルクスワーゲンとかトヨタ自動車とか外資系が強みを見せていたが、EVなどで中国企業が競争力を増し、それなりのシェアを占めるようになってきた。このため、新エネルギー車免税の恩恵は、多分に中国企業の伸長を意識した措置でもあったのだろう。

だが、恩恵を受けるのは、中国企業だけではない。外国企業のEV市場の広がりを見据えて中国進出を図っている。ホンダが今年6月、ガソリン車の工場を持つ広州でEVの新工場を造ると発表した。独BMWも遼寧省瀋陽の新工場でEV生産を開始した。ガソリン高級車では世界的に圧倒的なシェアを誇る同社も「中国ではいつまでもガソリン車で行けない」と読んでいるようで、今後、全製造ラインをEVに当て、年間最大40万台の生産を目指していくという。独アウディも吉林省長春で2024年末にEV専用工場を竣工させる見通しだ。

自動車業界は、今春のゼロコロナ政策で広州や上海工場の可動が封じられたため、4月生産量は1万757台と3月の5万5462台から81%の激減となった。販売量も3月の6万5000台から4月はたった1512台に終わった。輸出台数を見ても、3月の60台から一挙にゼロになった。もっとも、中国汽車(自動車)工業協会によれば、4月の業界全体の生産量、販売量は、それぞれ120万5000台、118万1000台と3月比で46・2%、47・1%落ち込んだ。1-4月のスパンで見ると、生産量は769万台、販売量は769万1000台で、前年同期比でそれぞれ10・5%、12・1%の減となった。10月時点で、ゼロコロナは完全に収束していないが、海外企業関係者は「党大会が終わったら、当局はまもなく経済発展に舵を切るであろう」と読み、原態勢回復の準備を進めている。

<先進企業テスラの出方>
中国ではEVの代名詞ともなっていたテスラは国内企業の追い上げにあって、特に苦しい立場にあったが、手を拱いていたわけではない。ロイター報道によれば、テスラは上海浦東新区にある工場の生産能力拡充を図るため、生産ラインの改修を行い、今年9月にその作業を終了した。これで年間生産を100万台まで伸ばしていく。さらに、上海自由貿易試験区「臨港新片区」内に新工場を建設する計画もある。当局の許可が下り次第、着工し、2年以内の完工を目指す。新工場がスタートすれば、新たに45万―50万台の増産も可能となる。臨港地区に造ったことは、中国国内よりむしろ海外への輸出を意識したものであろう。

テスラには当局側からの”贈り物“というべき朗報もあった。2020年8月、浙江省温州で「Model-3」を運転し、衝突事故を起こした女性ドライバーがテスラ社を訴えた。このドライバーは「駐車場に入ろうとした際、車が突然暴走し、ブレーキを踏んでも止まらなかった」と主張。事故で自身が重傷を負い、10台の車にぶつけ、計40万元の被害が出たため、その賠償をテスラに求めたのだ。だが、法院(裁判所)の鑑定の結果、ブレーキが踏まれていないことが確認され、ドライバーも当初警察側に「ブレーキを踏まなかった」と認めていたことが判明した。このため、法院は5月に、「全面的にドライバー側に責任がある」として、テスラへの損賠賠償どころか、逆に名誉棄損に当たるとして車主側に5万元の賠償と公開に謝罪するよう求めたのだ。一昨年、テスラEVに欠陥があるような事故報道が大々的になされて、同社にはかなりの痛手となったが、逆転判決は車の安全性が逆に宣伝されて願ってもない結果となった。

このテスラ寄りの判決は中国当局がテスラ、マスク氏を引き留めておきたいという意思表示であったのかも知れない。マスク氏の方も中国市場の魅力を知っているだけに、同様に中国との関係は切れない。そこで、彼は中国に迎合する政治的な発言をするようになった。10月早々、英紙フィナンシャルタイムズとのインタビューで、「台湾のために一つ合理的で受け入れ可能な特別行政区を考えたい。香港よりもより自由度が高い特別区はどうか」と提案した。この発言のあと、中国外交部の毛寧スポークスマンは「国家の主権、安全、利益を前提にすれば、台湾は高度の自治の特別行政区を作れる」と述べ、マスク提案を歓迎した。そのやり取りを見る限り、マスク氏が中国側と事前打ち合わせして発言している様子が見えてくる。もちろん、台湾側は「マスク氏は単純に企業利益を考えるだけの人」と一蹴した。

ちなみに、マスク氏の政治的な介入は中台問題にとどまらず、ウクライナ戦争でもしゃしゃり出てきた。米ネットサイト「Vice News」が世界最大の政治リスク専門コンサルティング会社「ユーラシア・グループ」のイアン・ブレマー社長から聞いた話として伝えたところによれば、マスク氏はプーチン大統領と電話で直に会談し、その際プーチン氏から「クリミアとウクライナ東南部4州の併合を認め、ウクライナが(NATOなどに入らず)中立のままでいるなら、話し合いに応じる」という交渉開始の条件を引き出したことを明らかにした。これはほとんどロシア側の立場を代弁する内容で、ウクライナ側が呑めるものではない。「プーチン氏は、ウクライナがクリミア奪回に出たら、核兵器を使うと言っていた」とも伝言した。マスク氏はロシアとのビジネスを考えて、プーチン氏のメッセンジャーボーイにもなったようである。

EVの本題に戻れば、中国EV企業は今、国内のみならず、海外進出まで図っており、日の出の勢いだ。したがって、彼らは非ガソリン車化を急激に進めている自国の市場を海外自動車メーカーに食われてはたまらないと思っている。今後、海外企業を巻き込んで猛烈な中国EV市場争奪戦が始まるのであろうが、そうであれば、海外から中国進出に先鞭をつけたテスラがいまさら後れを取るわけにはいかない。中国当局に食い込み、政治的な発言をして、機嫌を取ることもあり得えよう。マスク氏が、ウクライナ問題でもロシア制裁に反対ないし棄権したBRICS五カ国の一つ南アフリカの出身であることを忘れてはならない。テスラが米テキサス州オースチンに本社を置いているにしても、所詮ビジネス・ファースト。米国の思惑通りに動かないことは確かである。

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