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習政権3期目、ゼロコロナ政策の継続、公有化、社会主義化が強まり、期待感削がれる(上) 日暮高則

習政権3期目、ゼロコロナ政策の継続、公有化、社会主義化が強まり、期待感削がれる(上) 日暮高則

習政権3期目、ゼロコロナ政策の継続、公有化、社会主義化が強まり、期待感削がれる(上)

中国で5年に一度の共産党大会が終わり、習近平国家主席は10月23日、新しい7人の最高指導部で3期目に入った。党大会後の中国経済はどうなるか。普通、新体制ができれば世間の期待感が高まるものだが、今回はそれがない。むしろ、大会前に北京の路上で習体制継続反対の横断幕が登場、怨嗟の声の方が大きいように見受けられる。春先から続くゼロコロナ政策によって人民は外出を禁止され、自由な活動が奪われ、それに伴い生産活動が鈍化し、消費が衰え、雇用が悪化したことが背景にある。でも、コロナ禍はやがて終息する。その時期を待って多くは「再び華々しい経済活動が再開される」と望んでいるのだが、どうも3期目の習指導部の目指すところは「先富論」でなく「共同富裕」。ゼロコロナは依然継続され、自由な経済活動は抑えられ、社会主義的な政策の復活すら見られる。毛沢東時代を思い出させるような平等主義が人民に経済マインド、インセンティブを与える見通しはなさそうだ。

<四通橋の反習近平横断幕事件>

ゼロコロナ政策と習近平体制継続への批判は、やはり若者の多い街から現れた。党大会開会が迫った10月13日に、北京市海淀区の四通橋に習体制批判の横断幕が張り出されたのだ。四通橋は北京を取り巻く環状線「三環路」と中関村南大街が交差する立体橋であり、その橋げたの上に、「学校や職場でストライキを行い、国賊習近平を罷免しよう。立ち上がれ、われわれは独裁者の奴隷になることを望まない。反独裁、反専制が中国を救う。一人一票で主席を選ぼう」「PCR検査は要らないご飯が食べたい(不要核酸、要吃飯)。封鎖は要らない自由が欲しい(不要封鎖、要自由)。虚言は要らない尊厳が欲しい。文革は要らない改革が必要だ。領袖は要らない投票用紙が欲しい。奴隷にはならない、公民になる」と書かれた横断幕。さらに、拡声器でもそのスローガンが付近に流された。

中関村には北京大学、清華大学はじめ大学や研究機関が集中しているほか、ハイテク企業も数多く、若者が集まっている地区として有名だ。この“事件の首謀者”は北方の黒竜江省から来たIT技術者の彭載舟という男で、間もなく逮捕されたが、場所が場所だけにこの地区の協力者も多くいたことであろう。今年5、6月、北京でコロナ感染が拡散し、大学、高等教育機関は学校ごとに封鎖され、寮生活を送る学生は事実上外出禁止になった。この時期はちょうど学生の卒業期に当たり、就職を控え帰郷するころだが、封城で叶わなくなった。しかも、ゼロコロナによる不景気で就職自体もままならない。学生の不満は頂点に達し、多くの大学で抗議活動も展開された。その挙句が今回の事件。怒りの対象がストレートにゼロコロナ封鎖を進める習近平主席に向かったようだ。

党大会開会中に、ネットのSNS上でも、「不要、要、不要、要」という具体的に必要、不必要の目的語の言葉を書かない形のプラカードを持って上海の街を練り歩く女性の動画が登場した。四通橋の事件を知っている者ならだれでも「不要、要」の意味するところが何かはすぐに分かる。10月14日、深圳で香港に通じる羅湖出入境口では「習近平を打倒し、改革開放を守ろう」との横断幕を掲げる男も現れた。改革開放とはかつての最高指導者鄧小平氏が打ち出したスローガンであり、その後江沢民、胡錦涛政権時代もこの路線が踏襲された。したがって、このスローガンがすなわち江、胡時代の高成長時代を礼賛し、経済成長よりコロナ封鎖を優先させる習氏路線の否定にあることは明白だ。共産党の支配が強まっている香港でも、立法会(香港の議会)掲示板に習近平氏の肖像とともに「独裁者は去れ」などの言葉が入ったポスターが張られた。ちなみに、事実上一国二制度を放棄した香港では、四通橋事件はじめ反習近平的な抗議活動は報道されず、扱われても否定的な取り上げ方をされている。

言論の自由がない中国では、特に党中央指導部に対する公開の批判に対しては厳罰が下る。2018年、上海で「習近平の暴政に反対」と言いながら習氏の肖像画に黒インクを投げて汚した董瑶瓊女史は逮捕後、精神鑑定などはされずに精神病院にぶち込まれた。インクを投げただけでは大きな罪に問えないためか、“精神異常者”にされてしまった。元党幹部の二世という「太子党」で、王岐山国家副主席の友人でもあり、不動産会社を経営するビジネスマンの任志強氏は、習氏の続投意欲などを激しく批判する文書を発表したことから、2020年に“汚職”などの別件の罪で起訴され、懲役18年の判決を言い渡された。党中央幹部の友人であっても、太子党であっても、習氏への批判は一切容赦しないという考えのようだ。

<第3四半期までの経済データ>

中国国家統計局が10月24日に発表したデータによれば、今年第1-3四半期のGDP(域内総生産値)は87兆269億元、前年同期比で3.0%の伸び。それぞれの四半期ごとに見ると、第1四半期は前年同期比4.8%の増、第2四半期が0.4%の増、第3四半期が3.9%の増。第1-3四半期で一定規模以上の工業企業(年売上高2000万元以上の企業)の付加価値額は、前年同期比で3.9%の伸び。第3四半期だけだと4.8%の増だという。利潤額を見ると、1-8月期、一定規模以上の工業企業の利潤総額は5兆5254億元で、前年同期比2.1%のダウン。第1-3四半期の社会消費財小売り総額は32兆305億元、前年同期比で0.7%の減。この数字は第2四半期で4.6%の減だが、第3四半期には3.5%の増と盛り返している。第2四半期に生産額や消費額が下がっているのは、大都市の上海で5、6月に大規模な都市封鎖(封城、ロックダウン)が展開されたことが影響していよう。

都市の失業率を見ると、第1-3四半期で平均5.6%、そのうち第3四半期だけでは5.4%。年齢別に分けると、25-59歳人口の失業率が4.7%であるのに対し、16-24歳人口のそれは17.9%と高率だ。規模の大きい31の都市に限ると、5.8%と全国平均よりさらに高くなる。全国の企業就業者の週平均労働時間は47.8時間という。本来、統計局の経済データ発表は毎月中旬に行われ、今年10月も18日の発表が予定されていた。だが、直前に理由を明らかにしないまま、発表を延期した。ちょうど中旬は党大会の開会中であり、観測筋は「不景気な数字が出てくると、大会の熱気を冷ましてしまうので、発表を大会後に延ばしたのであろう」との見方をした。仏AFP通信社はアナリストの話として、「ゼロコロナによるロックダウンが工業生産に与えた影響、さらには不動産不況の現状を知らせたくなかったのだ」と指摘している。

不動産の状況も芳しくない。国家統計局のデータによれば、今年1─7月期の不動産投資は前年同期比6.4%減と1─6月期の5.4%減から減少ペースが加速。さらに、1─8月での不動産投資は同7.4%減と1─7月の数字からさらに減少ペースが増し、2020年3月以降で最大の落ち込みとなった。不動産取引(床面積ベース)を見ると、1─8月は前年同期比23.0%減で、引き続き需要の低迷状況を示した。新築着工(床面積ベース)は前年比37.2%減。国内の不動産開発企業が調達した資金は同25.0%減であった。

当局が金融機関に窓口規制に指示した結果であり、昨年来、巨大不動産企業「恒大集団」がデフォルトに陥り、このあと大型企業が恒大に続いたことは記憶に新しいところだ。今年に入り、ゼロコロナで人流が止まったことも不動産不況に拍車をかけた。物件は値崩れを起こし、9月に上海で6000万元の値が付けられていたマンションが10月末には3599万元に、5500万元のマンションは3000万元まで下がった。不動産は資金調達の担保となるため、不動産価値が下がれば、すなわち経済活動は低迷するのは必然だ。

2軒目以上の住宅購入に高税がかけられるため、富裕層が資産保持のための手段という見方をしなくなったことも大きい。習主席が「住宅は住むもので、投機の対象にしない」と宣言したため、購入意欲が萎えた。だからと言って、勤労者の住宅購入が進むかと言えば、そうでもない。住宅価格はすでに一般サラリーマンが給料の範囲内で購入するには高すぎて、手の届かないものになっている。さらに購入者にとって心配の種は、中国の土地が国有であり、高額で手に入れても与えられるのは70年の使用権だけであり、いずれ時期が来たら国に没収され、資産を失うかもしれないという点だ。習近平政権が20回党大会後、ますます社会主義化し、公有制度を復活させ方向性を示したことで、その不安は増している。富裕層は今、国内物件に目もくれず、海外の不動産に関心を向けている。

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