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第24回 天山山脈で見た「麺ロード」  直井謙二

第24回 天山山脈で見た「麺ロード」  直井謙二

第24回 天山山脈で見た「麺ロード」

1989年の秋、楼蘭を取材するチャンスに恵まれた。東京から北京経由で新疆ウイグル自治区の区都ウルムチまで飛行機の旅だ。東京から北京までの飛行時間と北京からウルムチまでの飛行時間は両方ともほぼ4時間。中国大陸の大きさを見せつけられる。ウルムチからまる一日かけて天山山脈を北から南に縦断し、オアシス都市のコルラに向かう。ウルムチを出発し、しばらくは草原が続くが、山道に差し掛かると道はカーブとなる。やがて天山山脈の分水嶺に近づくと、万年雪に覆われている。この雪こそ、タクラマカン砂漠を潤し、オアシス都市の生命線である水をつくり出してきた。

目的地である楼蘭はおよそ2000年前に栄えたシルクロードの要衝で、天山山脈から流れ出た雪解け水がロプノール湖にたまり、繁栄を支えた。楼蘭が滅び、流砂の中に消えた謎は解明されていないが、天山山脈からの雪解け水の流れが変わってしまい、ロプノール湖が干し上がったためだという説もある。

途中で昼食のためにドライブインを兼ねた市場に立ち寄った。食堂の軒先には羊が1頭丸ごとつるされていて、客の注文を受けると肉をそいで料理してくれる。早速、通訳が勧めるうどんを注文した。若い女性が羊の肉と野菜を炒め、うどんをゆでている。大きな中華鍋で炒めると、時々鍋の中に火が入る。中華料理店の典型的な光景だ。

ほどなくして2つの皿が運ばれてきた。【写真】片方は単にゆでたうどん、もう一方はトマトソースで羊や野菜を炒めたものだ。食べ方がよく分からずに戸惑っていると、通訳が「肉と野菜を炒めたものをうどんにかけて食べろ」という。指示に従ってかけてみて、ハッとした。スパゲティに近くなった。ただし、写真でも分かるように、フォークとスプーンではなく、箸で食べる。

食事の作法は中国風だが、中身は確実にローマに近づいている。なかなかの味で満足して店の外に出てみると、食堂の看板は漢字とアラビア語だ。さまざまな民族が入り混じっていて、さながら「多民族食堂」だ。食堂の脇では、ウイグル族の中年のおじさんが大きな釜に燃料を放り込みながらナンを焼いている。

小麦粉を練って円盤型にしたものを釜の天井に貼り付けている。おじさんの手馴れた作業を眺めながら、この先、シルクロードを西にたどってローマに近づけば、やがてチーズやソーセージがナンの上にのせられピザになるのではないかと想像した。


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