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第469回 発展に遅れた貴州省、ビッグデータ産業に活路(その3) 伊藤努

第469回 発展に遅れた貴州省、ビッグデータ産業に活路(その3) 伊藤努

第469回 発展に遅れた貴州省、ビッグデータ産業に活路(その3)

中国でも貧しい貴州省での典型的な地方でもある丹塞県で二つの貧困対策プロジェクトを視察した翌日は、にぎやかな省都・貴陽の中心部から車で30分ほどの所にある「貴州省ビッグデータ総合試験区展示センター」を訪れた。

貴州省は2010年代に入ってから、インターネットなどで集めた膨大な情報を活用する「ビッグデータ」産業の育成に発展の活路を見いだし、IT産業の誘致と育成に積極的に取り組んでいる。貧困撲滅を掲げる習近平指導部にとって地方省の経済底上げは重要課題で、中国中央政府も2014年を「ビッグデータ元年」と位置づけ、この分野での戦略計画をいち早く策定した貴州省に対するさまざまな支援を本格化させた。

ビッグデータ関連の試験区になった貴州省には、国家の戦略的政策に沿って早速、中国の大手通信関連企業がそろって進出し、これと前後して、「IT企業なら貴陽に」という流れが出来上がっていったという。年間を通じて気温が低く、地震の発生が極めて少ないという貴州省の自然条件も、暑さを嫌い、地質の安定性が重要なビッグデータの運用・管理には追い風となる。ビッグデータ産業を育成するため、貴州省はデータセンターで大量に使用する電気料の割引や、事務所家賃の免除など各種支援策を打ち出す一方、2015年からは貴陽で第1回ビッグデータ博覧会を開いたのを皮切りに、同博覧会は年々、欧米有力企業の出展を増やしている。

試験区の展示センターでは、貴陽市内の交通警察官の勤務状況を電子データで把握しながら、幹線道路の交通渋滞緩和の方策に役立てたり、勤務の効率化や勤務評定の資料づくりなどにビッグデータを活用している様子が分かった。別のブースでは、貴州に拠点を置く大手貨物輸送会社の長距離トラックの中国全土での運行状況および顧客(荷主)からのトラック輸送の注文などがリアルタイムで把握できるカラーの液晶画面がサイトに大きく映し出され、同社の業務効率化と業容拡大に役立っているプロセスが理解できた。

案内役の女性は「データから価値が生まれる」と説明していたが、人口が375万人の貴陽市では現在、ほぼすべての行政サービスを「政府行政クラウド(雲)」に移して手続きが行われているという。行政手続きのクラウドから今後は、道路運行管理、医療、物流、製造業などの分野にもビッグデータは生かされていくようだ。

また、貴陽市や貴州省にとどまらず、今後の運用展開によっては中国全体でデータを収集し、利用されていくはずで、多くの民間企業が貴陽にデータセンターを設け、ビッグデータを利用して新たなビジネスを展開していく流れが加速する予感がした。地元・貴州省の大きな関心事は、「若者の雇用先の確保」ということを関係者から多く耳にしたが、電子商取引の中国最大手アリババグループをはじめ、大手有力企業の進出が相次いでいることから、将来的にはむしろ、進出企業にとっては優秀な人材確保が新たな課題になるのではないか。

 

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