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コロナ禍明けでも依然厳しい経済環境の中国―西側からの投資抑制、デカップリングが問題(上) 日暮高則

コロナ禍明けでも依然厳しい経済環境の中国―西側からの投資抑制、デカップリングが問題(上) 日暮高則

コロナ禍明けでも依然厳しい経済環境の中国―西側からの投資抑制、デカップリングが問題(上)

米国、スイスの銀行破たんなど世界的な金融不安とインフレ懸念があって今年の世界経済は、先行きが不安視されている。過去20年近く世界の景気を引っ張ってきた中国が、コロナ禍明けとはいえ、残念ながら、今年はそれほど大きな牽引役になりそうにない。全人代で、今年のGDP成長率目標は2022年実績の3.0%を大きく上回る「5%前後」と設定。国際通貨金(IMF)も5.2%と予測した。中国のエコノミストは「この目標は実現できる」と楽観視するが、経済環境はそれほど明るいものではない。確かに、ウクライナ戦争の影響でロシアから安価の石油を大量輸入し、エネルギー面では安定供給が図られているようだ。だがその半面、中ロ接近に不快感を持つ西側からの投資が抑制され、外国企業も撤収するところが増えてデカップリングが進んでいる。そのために、国内の雇用状況は依然好転しておらず、大学新卒者は半分も就職できない状態だ。中国当局は現況をどう認識し、障害を乗り終えようとしているのか。

<景気と雇用情勢>
国家統計局が3月31日発表したデータによれば、今年3月の製造者購買担当者景気指数(PMI)は51.9であった。PMIとは製造部門における毎月の経済活動の早期指標を示すデータで、「50」という数字が経済活動の拡大、縮小傾向を見極める分かれ目となる。その意味では51.9という数字は拡大傾向を示すもので、好トレンドと言えるが、昨年12月から続いていた上昇トレンドが止まり、3カ月ぶりに前月比で0.7ポイント下がった。基幹産業である鉄鋼業を見るだけでも、2022年、主要鉄鋼企業の営業収入は6兆5875億元で、前年同期比6.35%の減、利潤の総額は982億元で、同72.27%の減であることが、中国鉄鋼工業協会の調べで分かった。今年に入ってもこの傾向は続いているようだ。

3月のPMIで従業員数という項目を見ると、「50」を下回っており、依然雇用情勢悪化の見方が示された。中国の公式データによれば、昨年、高等教育卒業者は初めて1000万人の大台に乗り1076万人となったが、6月時点で就職が内定した学生は29%程度だった。今年、上海に限れば、高等教育機関を卒業する学生は23万6000人で、各大学・学院の平均就職率は32.8%だった。経済発展都市であり、しかもコロナ禍が終わった後での上海であれば、もっと高い数字が出ても良さそうだが、当局の期待にはそぐわなかった。今年の全国の高等教育機関卒業生は昨年より82万人多い1158万人。上海の例をみるまでもなく、全国的な就職率はかなり悲観的なものになるであろう。

国家統計局の資料によれば、昨年16-24歳の都市青年の失業率は19.9%だったが、今年2月段階でもその数字は18.1%。若干良くなっているものの、依然2割程度の失業者が出ていることに変わりない。恒大集団などの不良債権問題を抱えた不動産業界、アリババ集団への圧力の影響を受けたIT業界では依然回復基調は見られず、雇用は依然厳しい状況にある。こうした情勢を受けて、工業都市が多い広東省では、30万人の都市青年を郷村に派遣し、地域振興に役立たせようとする計画を立てた。「百の県、千の鎮、万の村のレベルアップを図るための3年行動計画」と呼ばれる策で、文革やその直後にあった「農村下放運動」をほうふつさせる。だが、高学歴の青年が農村に行ったところで、能力、技術が発揮できるポジションが与えられるわけはない。3年行動計画とは所詮、都市での景気が回復し、雇用が増大するまで、食糧が豊富な農村で若い世代を一時的に引き取って欲しいとの思いが込められた策に過ぎない。

国家統計局が4月11日発表したところによると、今年3月の中国の消費者物価指数(CPI)は前年同期比でわずかに0.7%の増。そのアップ率も2月の同1%増から0.3ポイント落ちている。第1四半期(1-3月)の平均CPIは前年同期比で1.3%増と小幅にとどまった。デマンドプルインフレは起きていない。また、同月の生産者物価指数(PPI)は前年同期比2.5%のダウン。前月比では横ばいながら、前年と比べると、下落率が一段と拡大、2020年7月以来最も低い数字となった。鉱工業生産指数(IPI)は前年同期比で1.8%低下、これも前月比では横ばいだった。1-3月期のPPIは前年同期比1.6%のダウン、IPIは同0.8%低下した。

国務院発展研究センターの張立群研究員は「需要の縮小が企業心理や経済の回復を妨げている」と分析する。米系華文ニュースによれば、台湾大学のエリオット・ファン教授は「今の中国の状況は日本でバブルが崩壊した時と非常に似ている。中国の経済発展は大部分、日本のバブルの時期をなぞってきたところがあった。このため、中国のバブル崩壊後にたどる道も日本と同じようになる」と指摘した。また、「不動産分野に多くの債務が集中したのは、不動産がずっと値上がりし続けるという期待心理によるものだ。それで不動産問題が容易に金融問題(不良債権問題)にすり替わる。人間は期待心理によって理性を失う。人間が理性を失う時には政府の取る政策は効果があるが、社会全体が理性をなくした時にはいかなる政策も役に立たない」と話している。

<金融動向とその後の村鎮銀行>
世界的にはインフレ抑制のため、金利の引き上げが趨勢となっているが、中国では反対に景気浮揚策が取られている。中国人民銀行(中央銀行)は3月27日に市中銀行から強制的に引き取る資金の比率である預金準備率を0.25%引き下げた。預金準備率の引き下げは昨年4月、12月に次ぐ。この結果、5000億元程度の金が市場に放出され、銀行は企業への融資などに振り向けられる。党と中央政府は3月初めの全人代で、今年の経済成長率を「5%前後」と設定したが、李強総理も同13日、「5.5%の実現は容易ではない」と厳しい見方を示した。確かに、その後の新築住宅、自動車などの耐久消費財の販売状況から見て、ゼロコロナ政策の“後遺症”が思いのほか大きいようである。

こうした不景気を受けて、中国では金融機関の支店閉鎖が相次いだ。米系華文ニュースによれば、昨年全国で2600カ所の商業銀行の支店が閉鎖されたという。今年に入ってもすでに100カ所以上の支店が業務を終えている。中には10年以上も営業を続けてきた各地域で馴染みの支店も閉鎖されているという。建設銀行と工商銀はそれぞれ上海の2支店を閉じた。工商銀は山西省太原の4店舗も事前予告もなく閉鎖したようで、ある利用者は「銀行の支店に行くと、入り口に営業停止の告知と『近くの別の支店に行ってください』との張り紙があるだけだった」と話していた。中国メディア「財経」は支店閉鎖の理由として、「インターネットによって、利用者がわざわざ支店に来なくても用が足せるようになったため」と説明しているが、それよりも、「不動産売買が少なくなった」などの営業量の縮小が大きな原因であるようだ。

大銀行の支店が閉鎖された場合、利用者は多少の不便をいとわずに最寄りの別の支店に行けば済む話だが、銀行そのものが倒産してしまうとそうもいかない。内モンゴル自治区包頭市の商業銀行である「包商銀行」は「重大な信用リスクがある」ということで2019年に区政府に接収されたが、2021年2月に正式に破産宣告が出された。こうした中小銀行の預金は保護されないため、利用者は泣き寝入りせざるを得ない。昨年4月、取り付け騒ぎが起き、預金が引き出せなくなって大問題となった河南省の禹州新民生村鎮銀行、上蔡恵民村鎮銀行、柘城黄淮村鎮銀行、開封新東方村鎮銀行などの村鎮銀行はその後、破産することなく存続している。ただ、預金が凍結されている状態は今でも続いているもようだ。

村鎮銀行の預金者は昨年、人民銀行鄭州(河南省の省都)支店前に座り込んで抗議の意思を示していたが、今では黄河河畔、万達広場、二七広場など市内各地で大きなバルーンを飛ばして、その下に「河南省政府は不法な預金口座凍結は止めろ」と書かれた垂れ幕を掲げて要求し続けている。万達広場のバルーン垂れ幕にはそのほか「銀聯カード(デビット、クレジットカード両用)は全国どこでもキャッシュサービスが受けられるのに、河南省はどうしてできない」、二七広場のバルーンには「河南省は他人の預金をすべて奪い取った。これは天の神様も許さないことだ」という非難の文字が書かれた。抗議行動に参加する村鎮銀行預金者は、今でも“潜在的な危険人物”と見なされて警察の監視対象者になっており、3月初めの全人代開催時には身柄拘束されたり、自家用車に追跡用発信装置が取り付けられたりした。

当局の金融機構改革も行われ、3月17日、その中身が発表された。党中央に「中央金融委員会」と、規律強化や腐敗撲滅を担う「中央金融工作委員会」が新設され、政府内に作られる「国家金融監督管理総局」や人民銀行を統一指導していくことになった。これに伴い、政府に置かれていた「国務院金融安定化委員会」や「中国銀行保険監督管理委員会」は廃止される。この改革が具体的に何を意味するかは分かりにくいが、要は、金融管理を党中央が一元管理する、つまり習近平主席に権限を集中させる狙いがあると見られる。もっと具体的に言えば、中国が台湾有事を起こした場合、必ず国際的な金融ネットワーク上で米国や西側の報復を受けるため、その対応措置の決定判断を習主席に委ねる意味があるとの見方だ。ロシアがウクライナ侵攻後SWIFT(国際銀行間通信協会)から締め出されたことが“反面教師”になっているのかも知れない。


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