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コロナ禍明けでも依然厳しい経済環境の中国―西側からの投資抑制、デカップリングが問題(下) 日暮高則

コロナ禍明けでも依然厳しい経済環境の中国―西側からの投資抑制、デカップリングが問題(下) 日暮高則

コロナ禍明けでも依然厳しい経済環境の中国―西側からの投資抑制、デカップリングが問題(下)

<中ロ貿易とドローン、半導体の輸出>
ウクライナ戦争で中国は西側の一斉制裁に乗らないばかりか、むしろロシア寄りの姿勢を示したため、プーチン政権に歓迎され、両国はかつての「中国ソ連兄弟国」のような良好な関係を保っている。ロイター電によれば、中国税関総署が今年1月20日発表した統計によると、昨年は割安感のあるロシア産原油の輸入が拡大し、輸入量は前年比8%増の8625万トン、日量172万バレルとなった。中国にとってもともとロシアがサウジアラビアに次ぐ2番目の原油調達先だったが、昨年は、サウジからの8749万トン、日量175万バレルとほぼ肩を並べるレベルにまでに増えた。この勢いで行くと、今年は間違いなくロシア産輸入がサウジ産を追い抜くではないかとも見られている。

奇妙なことに、ロシア産の安価な石油を輸入している割には中国のガソリンなど石油製品の価格は下がらない。それどころか逆に値上がりしている。サウジアラビアなどOPEC諸国が4月初め、ロシアなどOPEC非加盟国とともに協調減産に入ったことが原因と見られる。サウジ一国だけで日量50万バレル削減したため、中国の原油価格も10.56%アップ、トン当たり450元となった。これに伴いガソリン価格は4月中旬に1リッター当たり0.4元程度上昇したもようだ。中国も現時点でサウジからの輸入をメーンにしているため、この世界的な原油価格の高値安定策から逃れられないようだ。

米国、欧州などからさまざまな締め付けを受けたことで、中国、ロシア2国間の交易関係は一段と強まっている。中国税関総署は2月13日、2022年の中ロ間の貿易総額が1900億ドル近くと過去最大になったことを明らかにした。中国から見ての輸出額は前年比12.8%増の762億6480万ドル、輸入額は同43.2%増の1122億2531万ドルで、中国側の赤字額は359億6051万ドルとなった。中国の輸出相手国としては前年より3つ下げて16位と低いが、輸入相手国としてロシアは11位から7位に浮上した。このランキングを見る限り、中国がこれまで西側を主な貿易相手とし、ロシアをそれほど重視していなかったことが透けて見える。

ウクライナ戦争発動によってロシアは制裁を受け、EU諸国との貿易量を大幅に減らしたため、その代替として友好的な経済大国である中国への貿易量を増やさざるを得なくなった。ロシアからの主要産品は上記のように原油、天然ガスのエネルギー産品であり、パイプラインを通しての天然ガス輸出は22年に前年比で5割アップになった。この拡大トレンドは今年に入ってますます顕著になっており、今年3月だけの両国間貿易総額は200億ドルと前年同月比で7割増に膨らんでいる。戦時下にあるロシアはさまざまな物資が不足しているため、中国からの輸出も活況を呈しており、前年同月比で2.3倍に増えたという。

ロシアが現在、一番欲しがっているのは武器、弾薬だが、中国は西側から監視の目が向けられている手前、露骨な武器輸出は控えているようだ。だが、当面の貿易赤字解消のためにも、輸出拡大は必要だ。そこで目を付けたのが、グレーゾーンとなっているドローンや半導体の輸出だ。ドローンは民間利用も考えられるため、西側も露骨に輸出禁止を言えないようで、中国は昨年、330万ドル相当のドローンをロシアに送っている。半導体は高性能の武器製造に使われるため、米国は厳しくロシアへの供与を禁止してきた。それでも中国は、高性能でない自国生産の半導体をロシアに渡している。中国からトルコや中央アジア諸国に輸出される家電などに半導体が使われており、ロシアはこうした家電を通じても半導体を得ているようだ。

現時点で中ロの経済関係は相互の補い合いでうまく行っているかに見える。しかしながら、ロシアのウクライナ侵攻が長引けば、双方にとって良い未来はない。ロシアは戦争が2年目に入って戦費負担が甚大となり、財政に大きな影を落としている。従来、欧州にエネルギーを供給して安定的に外貨を得て、財政を潤わせてきた。それが中国との関係に移ったことで、人民元ベースの取引となっており、今後西側の最先端で豊富な物資を得るには不十分な状態となった。米紙「ウォールストリートジャーナル」によれば、ロシア中央銀行の元幹部アレクサンドラ・プロコペンコ氏は「ロシア経済はまさに長期的な後退局面に入っている。西側との関係を止め、ますます北京への依存度を強めれば、いずれこの隣国の経済植民地になってしまうだろう」と危機感を募らせている。

一方、中国にとっても、ロシアとの必要以上の関係強化はプラスにはならない。短期的にはエネルギー供給面でメリットを受けるが、その半面、西側の企業は中国から出ていき、新たな資金流入もない。加えて、半導体などの高度技術の流入も抑えられている。このまま中ロ接近を続ければ、西側はそれを理由に中国に対しても新たな経済制裁も仕掛けて来るだろう。中国製品の欧米での販路は絶たれるが、ロシアやグローバルサウス諸国の経済力で欧米の販路を補えるとは思えない。長期的にはロシアへの接近は裏目に出ることは間違いない。

<外資、外国企業の中国離れ>
中国がロシアとの経済関係を強めたことで、西側との関係ですでにその反動が出てきた。日経新聞は今年2月28日、中国国家外貨管理局のデータとして、2022年下半期(7-12月期)に外資の対中投資は18年ぶりの低水準だったと報じた。それによれば、外国企業が中国国内で投じた下半期の直接投資は前年同期比73%減の425億ドルにとどまったという。20年の下半期から22年の上半期までの半年ごとの投資額が平均1600億ドルであったことと比較すると、4分の1近い低い数字。前年同期比で見ると、今世紀に入ってからは最大の下げ幅ではないかとしている。ちなみに、中国企業による海外への直接投資は同21%増の842億ドルだったという。資金の流入より流出が多いのは5年ぶりの現象とのこと。広域経済圏構想「一帯一路」に基づいた対外投資を断固推進する方針に変わりはないようだが、外貨の流出が止まらないのは不安材料だ。

中国への投資額減少は、中ロ接近を受けた米国の圧力だけでなく、台湾有事への不安で企業が中国とのサプライチェーン構築に二の足を踏んでいることも原因と思われる。台湾のスマホ製造企業「フォックスコン(鴻海、富士康集団)」は中国国内の工場を縮小し、インド、ベトナムなどへの移転を図っているし、上海や南京に工場を持つ台湾最大の半導体製造企業「TSMC(台湾積体電路製造)」も軸足を米国や日本に移転させる方向で、中国国内でこれ以上の規模拡大をしない方針と言われる。米国は先端半導体の対中国供与で、最先端の兵器が造られることを極力警戒しているのだ。軽工業製品で工場進出していた海外企業も、中国の労働賃金が高騰したこと、国内企業が伸びてきて十分自国需要を賄えるようになったこと-などで、中国に工場を置いておくメリットがなくなった。加えてコロナ禍、ゼロコロナ政策があったので、中国への資本移転が縮小している。今後も海外企業の中国離れは続くのであろう。

日本の「ソフトバンク(SBG)」が電子商取引企業「アリババ集団」の保有株式をほぼすべて売却することが、英紙「フィナンシャル・タイムズ」の4月12日の報道で明らかになった。デリバティブ(金融派生商品)の一種である先渡し売買契約によってアリババ株を売却、約72億ドルの資金を得たという。昨年も同株の売却で290億ドルを得ていた。SBGはかつてアリババ株の34%を保有していたが、一連の売却で持ち分はわずかに3.8%までに低下したという。SBGの孫正義会長はアリババのオーナーである馬雲氏とは個人的な付き合いがあり、馬氏が1999年に起業した際、8000万ドルという巨額の資金提供をしている。これで、物販を中心としたアリババの事業は飛躍的に発展してきた。

アリババは傘下に「アントグループ」を設立、金融分野にも進出した。そのアントが香港、上海株式市場に上場を果たそうとした直前の2020年10月、アリババの株価は300ドル超の高値となった。だが、馬雲氏がオンライン・シンポジウムで政府批判とも取れるような発言をしたために、党・政府の逆鱗に触れ、アントの上場は中止させられた。馬氏への風当たりは強くなり、アリババやアントの経営陣から離れざるを得なくなった。彼はその後2年以上にわたって海外暮らしを続け、今年3月、アリババ本社のある杭州に戻ったが、もう企業経営に関わることはないのであろう。実は、金融当局がアントの1%程度の特別の株式(黄金株)を保有することで実質的な経営権を確保している。SBGがアリババ株を手放したのは、アリババ、アントの党・政府支配に嫌気が差したという理由もあったのかも知れない。

アリババと並ぶ電子商取引企業「テンセント(騰訊)」の香港市場の株価が今年4月中旬、大きく下落した。同社の筆頭株主であるオランダの投資会社「プロサス」とその親会社である南アフリカの「ナスパース」が昨年6月、テンセント株を段階的に売却すると宣言。そしてその通りにプロサスは売りを実行。4月12日、9600万株を売却前提の決済システムに移管したため、同社株価は同日5.2%安の357.2香港ドルとなった。外国企業が時期を同じくして中国IT企業の保有株式の売りに出ているのは、米国のシリコンバレー銀行の破綻などによる金融不安から資金回収に出た動きなのであろうが、その背景には中国IT企業への信頼度が薄らいできたこともありそうだ。

日本に限れば、対中投資熱を冷ますもう一つの要因がある。「アステラス製薬の現地法人の日本人幹部が3月中旬、「スパイ容疑がある」ということで拘束され、取り調べを受けていることだ。この幹部は50歳代の男性で、長期にわたって中国に駐在した。このほど現地の職を離れ帰国する直前で捕まったという。アステラスは新薬の承認申請のために現地当局者と接触が多く、臨床試験などで得られた医学上の情報を知る立場にあるが、こうしたことがスパイの容疑内容になったのであろうか。公安当局はこれまで、男性幹部拘束の具体的な容疑について明らかにしていない。そのために、現地の多くの日本企業従業員は疑心暗鬼となり、不安感を募らせている。拘束事件が相次げば、日本企業の本社も社員を送り出しにくくなり、勢い中国への投資マインドはそがれることになる。

<で、中国はどうする?>
国家統計局が4月18日発表したところによれば、2023年第1四半期(1-3月)の実質GDP成長率が前年同期比4.5%増だった。22年の第4四半期が同2.9%増からすると大きな伸びで、まあまあの数字である。ゼロコロナ政策が終わり、春節時に帰郷、旅行などの人民大移動があったほか、サービス業が盛り返してきたことが大きく影響したと見られる。ただ、全人代で提示された「5%前後」という目標からすればまだ不十分。米国などからの圧力を受けている今、成長率アップを目指すには、国内消費を高めていくほか、より付加価値の高い製品を造り、新たなマーケットを求めていく必要があるのだろう。

中国は2015年に「中国製造2025」という経済戦略目標を打ち出した。2025年までに製造強国に仲間入りし、2049年の建国100年には製造強国のリーダー的な地位を確保するという壮大な内容で、具体的には、①製造イノベーション能力を高める、②品質・ブランド力の強化、③グリーン製造分野を全面的に進める、④重点分野での飛躍的発展を実現させる-などを挙げている。そして、製造業高度化の主軸になるのは、EV(電気自動車)、携帯機器、センサー類の生産に欠かせない半導体の品質、自給率の向上を図ることが至上命題だとしている。なるほど、台湾企業を呼び込んで半導体生産をさせているものの、国内工場生産品は品質的には台湾、米国に劣っているし、素材、製造装置なども西側に頼っているのが実情だ。したがって、西側、台湾に頼れないのであれば、製造大国に向け粛々と“自力更生”で進めていくしかない。

欧米がファーウェイ(華為技術)スマホ、WeChat、TikTokなど中国機器、アプリを忌避している中で、とりわけ注目されるのが中国IT企業の動向だ。その業界で代表的な人物と言えば、電子商取引大手「アリババ集団」の馬雲(ジャック・マー)氏に他ならない。前述のように、馬氏は2020年秋に党・政府を批判するような発言をしたことで不評を買い、アリババや傘下の金融企業「アント」の経営陣を外され、以後、2年以上にわたって欧州や日本、東南アジアを転々とした。この間、海外の大物経済人と会ったり、農業、漁業分野を中心にさまざまなところを視察したりして、新たなビジネスチャンスをつかもうとしていた様子もうかがえる。

馬雲氏が今年3月、故郷の浙江省に戻っていることが確認されたが、実は、昨年暮れ、馬氏が東京に滞在していた時に、李強総理が部下を派遣して彼に接触させ、帰国を促したためと言われる。李総理は上海市書記時代に馬氏を顧問に招こうとしたほど彼の能力を高く買っており、総理自身は再度彼に活躍の場を与えたいとの意向があるのではないかとの見方もある。しかし、帰国してから、馬氏が新たなビジネス展開をしているとは伝わってこない。アリババやアントというビッグ企業を創った馬氏はまだ58歳という若さだ。中国は「中国製造2025」の実現を本気で目指すなら、当局が彼の商才をどう使っていくのか、中国経済全体を見通す上でも注目されるところだ。


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