1. HOME
  2. 記事・コラム一覧
  3. コラム
  4. 希望の光が見えるも、依然厳しい中国の不動産市況―過剰債務の恒大集団は綱渡り状態続く(上) 日暮高則

記事・コラム一覧

希望の光が見えるも、依然厳しい中国の不動産市況―過剰債務の恒大集団は綱渡り状態続く(上) 日暮高則

希望の光が見えるも、依然厳しい中国の不動産市況―過剰債務の恒大集団は綱渡り状態続く(上) 日暮高則

希望の光が見えるも、依然厳しい中国の不動産市況―過剰債務の恒大集団は綱渡り状態続く(上)

中国の不動産業界は一昨年、大型デベロッパー「恒大集団」の巨額債務問題が露見し、中央指導部が極端に不動産バブルの抑制策に出たために、それ以来危機的状況にある。毎年秋は住宅売買の最盛期と言われるが、昨年秋の取引はさっぱりだった。そのため、指導部は一転、国有銀行に融資制限の緩和を求めるなどテコ入れ策に乗り出し、若干市況は盛り返す様相を呈した。だが、これまで行われてきたデベロッパーの過剰投資、開発で新規建築の住宅はだぶついたし、それに伴う巨額債務問題が解消されたわけではない。加えて、ここ2年余コロナ抑制政策によって経済活動が抑えられて、庶民の住宅購入マインドがそがれたままだ。「長期的に見れば、人口減少傾向が続いていくため、需要増は見込めない」との冷めた見方もある。不動産業種はGDP(国内総生産)の約3割を占めており、この分野の継続不況は全体経済に暗雲をもたらすだけに深刻だ。

2023年の不動産価格>
中指研究院が発表した資料によれば、今年4月、全国100都市の新築住宅の平均価格は一平方メートル当たり1万6181元で、前月比0.02%の微増。前年同月比で見ると、0.07%の減であったとのこと。昨年は春から夏にかけてゼロコロナ政策が取られた時期であり、比較する意味はほとんどないが、微減であったのは意味深長だ。中古住宅では、100都市平均価格が同1万5826元で、前月比で0.14%の減。さらに、主要50都市の1カ月の賃貸価格は1平方メートル当たり36.8元で、前年同月比で見ると1.66%の下落だが、今年の前月比では0.09%の微増になった。100都市全体の取引建築面積は3月と比べて2割以上下降、取引価格が3月比でマイナスになったのは44都市。中古物件では76都市の価格が前月比で下がっているという。

都市別に見ると、この4月、新築住宅の一平方メートル当たり価格が一番高いのが深圳で5万3962元、前月比では0.07%の減。その他の一線級都市は上海が5万1127元、同0.05%増、北京が4万4719元で、同0.03%増、広州が2万4621元で、同0.01%の減。2線級都市では、杭州が2万9539元で、同0.01%増、アモイ(福建省)が2万9232元で、同0.02%減、南京が2万4751元で、同0.01%増、三亜(海南省)が2万4197元で、同0.02%減、珠海(広東省)が2万1557元で、同0.03%減。以上の都市が1平方メートル当たり2万元以上の都市。これに続いて1万元台の高位には広東省の東莞、江蘇省の蘇州、昆山、常熟、浙江省の寧波、温州、紹興、海南省の海口などが入る。前月比で一番の値上がりを示したのは成都であり、次いで合肥、西安、武漢の順。やはり省会(省政府所在地)物件の人気は根強い。

昨年、不動産売買はコロナの影響や融資の削減で最悪の状態にあった。ただ、秋の共産党大会以降、ゼロコロナ政策が終わり、融資枠も広がった。その浮揚策は年明けに顕著になり、今年2月以降、取引量が徐々に増え始め、「春の陽光が射し込んだ」市況となった。販売価格は、2月に前月比で3.5%増、3月には同5.2%の増となった。ところが、4月以降、不動産取引は再び下降した。五.一国際労働節(4月29日-5月3日)休暇のころは本来、住宅取引が増加する時期なのだが、一線級都市でも今年活況は示さなかった。北京の物件では、この期間、ネット上で契約されたのは114件で、建築面積は計1万4000平方メートルと、昨年同期に比べ6割の減となった。深圳では業者側が“特別価格”で売り出したが、それでも契約量は予想をはるかに下回るものだったという。

今年第1四半期に契約量が上向いたのは、不動産アナリストによれば、昨年のコロナ期停滞の反動があったほかに、「かなり有利な販売条件が提示されたからだ」と言われる。詳細は明らかでないが、実質的な値引きや、頭金の減額があったようだ。米系華文ニュースによれば、今年2月、河南省洛陽市では、地方政府が一軒目の住宅購入については頭金をこれまでの3割から2割に減額、2軒目の住宅についても徐々に頭金を引き下げるように改め、購入者がそうした緩和条件で銀行ローンが組めるよう手配していることが伝えられた。また、同市では、144平方メートル以下の新築住宅について、最高1万元を超えない範囲で、住宅価格の0.5%の補助を出すことも報じられた。だが、2割の頭金であっても「若者は買えないし、投資目的の人も離れる傾向が見られた」(地元不動産業者)という。

4月に入って、不動産市況は全国的に第1四半期の勢いが見られず、購入者が減少に転じた。その原因について、北京紙「新京報」は不動産仲介業者の話として、コロナ禍中に動きを控えていた購入者がこの時期にはすでに一渡りしたほか、「今は以前のようにじわじわと住宅価格が値上がりしていく状況にないし、購入者側が第1四半期に比べてもっと好ましい販売条件が出て来るのではないかと期待し、契約を急がない傾向が出てきたため」と指摘している。特に、中国不動産市場の3分の2を占める3,4線級(一級行政区の2番目、3番目の都市クラス)での暴落が目立った。コロナ禍前の2019年に比べて住宅価格は20-50%下落している。つまり、コロナ禍の3年を経て、住宅市場全体で数十兆元の価値が消え去ってしまったと言われている。

<不動産不況の影響>
昨年の不動産業は「極寒」の状態だった。国家統計局が1月17日に発表した国民経済データによれば、2022年の全国の不動産業者が開発に投じた資金は13兆2895億元で、前年比10%の減。前年比でマイナスを記録したのは1999年にデータを取り始めて以来初めてとのこと。住宅建設投資は10兆646億元で、前年比9.5%の減。商品住宅の販売面積は24.3%の減、販売総額は26.7%の減。この数字も1992年のデータ開始以来最大の下げ幅。この結果、この業種での雇用環境は最悪となった。多くの離職者が出たほか、残った従業員も給与が減額されたり、中には数カ月給料不配のところもあったりしたという。

中国の新築住宅の売買は、デベロッパーが建築着手前から買い手を募り、契約し、全額の支払いを求めるのが普通だ。したがって、買い手が付かないとデベロッパーは資金が枯渇し、建築が立ち行かなくなる。それ故に最近、中途半端な形で建物が残る「爛尾楼」がますます多くなってきている。実は、2000年以降、一部地域、都市で過剰投資により、爛尾楼や、出来上がっても人が住まない鬼城(ゴーストタウン)が生まれていた。都市ぐるみで鬼城になったのは内モンゴル自治区のオルドスが有名だが、恒大集団の大規模開発で、すでに廃墟になった海南島の人工島「海花島」リゾートマンション群も記憶に新しい。昨年からは、爛尾楼、鬼城地区が特定地区でなく、どの都市にも万遍なく存在してきているようだ。

地方政府はデベロッパーに行政区画内の土地の使用権を買い取らせ、工業団地や住宅建設を促してきた。その土地使用権の売却収入がこれまで地方政府財政の30-40%を占めてきたため、中央政府の支援をそれほど必要としなかった。ところが、コロナ禍の到来や恒大集団の過剰債務問題が露呈したことで、デベロッパーの開発意欲がそがれ、土地使用権の買い取りは減少した。財政省が3月中旬発表したところでは、今年1-2月の土地使用権の売却収入は前年同期比で29%の減。2022年通年の減少率(23%)からさらに拡大したという。その結果、地方政府の財政赤字は膨らんでいる。

デベロッパー、不動産業者側の経営状況も悪化の一途。克而瑞研究中心のデータによれば、2022年の不動産契約額は前年比で39%の減。著名不動産企業100社の通年販売額を見ると、6兆4622億2000万元と前年比41.6%の減で、100社のうちの9割は前年比で業績を悪化させている。業績が前年比で50%以上の減となった企業は36社に及んだ。その他の32社も20-50%減のマイナスだ。1000億元以上の売り上げを示したのは20社だけだった。これはすなわち、大型企業ほど業績が伸びていないことを示している。デベロッパーは投資意欲を失っているため、地方政府からの土地使用権取得も大幅に減少、著名100社のうち4割近い企業が年間を通して投資を止めたという。

金融機関も困っている。不動産価格はこれまで右肩上がりであったため、銀行にとっては優良な担保物件、債権であった。しかし、右肩下がりとなれば、優良債権が一転、不良債権と化す。日経新聞によれば、香港証券取引所に上場する主要32銀行の昨年末時点での決算を集計したところ、不動産向け不良債権は2640億元と前年同期比で7割近く増えたことが分かった。工商、建設、農業、中国という国有4大銀行の不良債権は約1800億元と6割増加、ここ10年で最大規模になったという。不動産企業向けの不良債権比率はここ数年1-3%程度で推移してきたが、昨年5.8%と急激に悪化したという。


《チャイナ・スクランブル 日暮高則》前回
《チャイナ・スクランブル 日暮高則》次回
《チャイナ・スクランブル 日暮高則》の記事一覧

タグ

全部見る