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希望の光が見えるも、依然厳しい中国の不動産市況―過剰債務の恒大集団は綱渡り状態続く(下) 日暮高則

希望の光が見えるも、依然厳しい中国の不動産市況―過剰債務の恒大集団は綱渡り状態続く(下) 日暮高則

希望の光が見えるも、依然厳しい中国の不動産市況―過剰債務の恒大集団は綱渡り状態続く(下)

<恒大集団はどうなった?>
2021年秋、ドル建て債の利払いができなくなり、真っ先に経営悪化が表面化したのは恒大集団だった。同社はその後も苦境を抜け出せないまま3年目を迎えた。最近の動きはどうか。実は昨年12月初め、オーナーの許家印氏が飛び降り自殺を図ったとの情報が巷に流れた。だが、許氏は直後にSNS上の画面に現れ、自殺説を全面否定すると同時に、「恒大集団は今年1月-11月に25万6000件の物件引き渡しを完了した。年内に30万件の引き渡しを達成しなければならない。時間は迫っており、われわれの任務は重い」と述べ、引き続き強い気持ちで経営にまい進することを宣言した。ただ、その強気の掛け声とは裏腹に、広州にある子会社の恒大汽車(EVメーカー)は生産を中止し、その企業資産は国営自動車企業に売り渡した。恒大グループ内のスリム化は継続して進められている。

さらに許家印氏は、今年1月1日、社員向けに新年メッセージを発表、「われわれは必ず物件引き渡し任務を完遂させるし、各種の債務も償還し、リスクを乗り越え、再生の新しい一ページを開く」と呼びかけた。だが、それに水を差すように1月5日深夜、恒大の柯鵬元執行総裁(COO)が警察に逮捕、拘束されるという事件が起きた。柯鵬氏は復旦大学を卒業した後、中国銀行や「上海青年報」「中国証券報」などのメディア関係の職場を経て、2008年、29歳の時に恒大集団入りした。許氏のお眼鏡にかなって引き抜かれたようだ。柯鵬氏は、恒大の子会社恒大文化集団、サッカー倶楽部の董事長に就いたあと、本業の不動産ビジネスに戻り、恒大地産トップ、恒大本体のCOOとなった。深圳蛇口地区のビスケット工場跡地開発など大きなプロジェクトをリードしてきた。

柯鵬氏逮捕の容疑は明らかでないが、恒大が経営悪化に陥っていた昨年3月、同社の預金134億元が行方不明となる事件が起き、それに絡んだのではないかと言われている。当局は柯氏が差し押さえを逃れるため、意図的に預金隠しをしたと疑った。この資金は結局、銀行が恒大の担保金として強制執行したもので、恒大側の問題ではなかったが、執行部は責任を取らせる形で柯氏のCOOの地位を解いた。それでも、当局の追及は止まず、年明けの逮捕になったようだ。恒大集団が行ってきたさまざまな債務返済の不履行、契約違反問題が同社の中心にいた柯鵬氏の責任として調べられるもようである。恒大集団の発展に貢献してきた柯氏は今、同社社員でいるものの、珠海の小さな企業の董事長の地位を与えられているだけだ。

恒大集団は3月22日、一部の主要債権者との合意を得て、計191億ドルのドル建て債券に関する再編計画を発表した。この額は恒大集団全社が抱えるドル建て債の8割に相当するという。計画の中身は、債券の期間を最長12年まで引き延ばす、債権を比較的優良な傘下企業の新規発行株式に転換するデット・エクイティー・スワップを行う-などとなっている。ただ、株式への転換対象に入っている傘下企業の恒大汽車は、前述のようにすでに国営企業に売却されている。説明時とは状況が異なっており、最終的にこの計画で債権者が納得できるのかは予測しにくい。日経新聞によれば、恒大集団は2月末時点で、債務履行などを求める訴訟を1317件も起こされている。工事や資材業者の未払い代金の請求であり、この総計は3124億5500万元にも及ぶようで、恒大の債務問題は測り知れない。

<不況への対策>
不動産不況の現状を受けて、党・政府は昨年秋、活況を図るための手立てを講じた。中国人民銀行(中央銀行)の報告書によれば、10月に住宅ローンの平均金利が4.3%と過去最低になったという。これは党大会開催時の“ご祝儀 ”として、コロナ禍明けに庶民が住宅購買意欲を起こすよう手を打ったものと見られる。また、人民銀行と銀行保険監督管理委員会は昨年11月、半年以内に返済期限が来る不動産企業の借入金に対し、その期間の1年間延長を認めることを決めた。恒大集団のような苦境に陥らせ、倒産などの最悪の事態に至らせないという配慮である。この策で不動産企業株は一時値上がりし、今年第1四半期の住宅売買契約量増加を呼び込んだ。住宅ローン金利は今年3月にさらに全国平均で4.14%と一段と引き下げられている。加えて、国有銀行が不動産企業向けに総額3兆1950億元超の特別融資枠を設定したともいう。

中国当局は、不動産バブル解消のため、2020年夏、「3つのレッドライン(三道紅線)」と呼ばれる抑制策を実施した。「総資産に対する負債比率を70%以下にする」「自己資本に対する負債比率を100%以下にする」「短期負債を上回る現金を保有する」という内容であり、これ以降、レバレッジを利かせた不動産企業の過剰借り入れがなくなり、市況を悪化させた原因となったことは否定できない。このため、今年初め、当局はこの3つのレッドラインを緩和する方針を決めた。具体的に、借入額の上限緩和を通じて一部の不動産会社の借入制限を撤廃したり、3つのレッドラインで設定された債務目標を達成するまでの猶予期間を先延ばししたりする措置が取られたという。

低所得のサラリーマンにも住宅を持たせようと、中国の一部銀行では「接力貸(リレーローン)」という二世代にわたって支払いを求めるローンシステムを導入している。日本で高額物件を購入する場合、親から子供に引き継ぐローンがあるが、中国でもこれが徐々にポピュラーになりつつある。一般に日本で返済期間を35年と設定すると、購入できる物件は年間所得の5倍未満と言われている。だが、中国の都市物件は50年間の給与を丸々つぎ込んでも返済できないほどの巨額であるため、高収入の富裕層か、親の財産をあてにしない限り、好ましい住宅を持つことはできない。低収入者が高額物件の返済をしていくための方便としては返済期間を延ばすしかない。このため、子供ら次の世代に引き継ぐ接力貸が有効で、「100年ローン」などとも言われている。

低所得者も然るべき住宅に住まわせる方策として共同購入・所有権方式もある。個人が物件を購入する時に、地方政府、厳密に言えば市がバックに付いた投資集団がその販売代金の一部を分担するというシステムだ。もちろん、市投資集団はその物件の一部所有権を持つため、共同購入者が居住できなくなったら一定額を補償して接収する。一方、共同購入者にその後所得増があったり、老後に退職金など一時金収入があったりした場合は投資集団所有分を買い取らせ、丸々個人所有にすることも可能だ。また、購入者の親族が継続して住むというのなら、市投資集団はその居住者を物件の新たなパートナーとして契約を結ぶこともできるという。この方式によって山東省青島市では爛尾楼問題がかなり解決したとも言われている。

<地方財政へのテコ入れ>
各地方政府は「融資平台」という投資集団を抱えており、高利な理財商品と銘打って一般から資金を募ってきた。融資平台は利益を確保するため、デベロッパーと組んで積極的に開発プロジェクトを展開してきた。不動産市況が右肩上がりの時ならそれでいいが、大型デベロッパーの債務焦げ付き問題が起きて、昨年は銀行からデベロッパーへの融資が止まり、開発は大幅ダウンした。このため、地方政府は土地使用権が販売できなくなり財政が悪化、融資平台は集めた資金の投資先を失った。今、銀行の債務と並行して、この融資平台の債務問題の解決が急がれる。地方政府が資産売却などして返済資金をねん出することが考えられるが、「最終的には多くの債権について出資者に泣き寝入りしてもらう」(不動産関係者)ことになるのかも知れない。

地方政府財政を豊かにする策として不動産税の導入論が再び登場してきた。楼継偉・前財政部長が最近発表した論文「新時代の中国財政体系改革と未来の展望」で、「不動産税は最も適正な地方税の税種であり、早期に実施すべきである」と提言したのがきっかけだ。地方財政を安定的に潤わすには、日本の固定資産税のように定期的に“財産”に課税するのが望ましい。ただ、不動産税はこれまで再三提起されてきたが、まだ本格導入には至っていないのは、ネックがあるからだ。楼氏も「不動産税の立法工作は大変難しい。なぜなら、最大の難点は(税額算定の基礎になる)不動産の価値をどう評価するかという点だ」と述べている。日本のように路線価を設定し、それを基に算定することはできない。であれば、税額算定は売買価格を基準にするという方法が一般的な認識だが、多くの物件が値引きして売られている現実があり、実質的に売買価格の算定は難しいとされる。

中国では不動産の登記も統一されていない。2013年3月に不動産登記の統一機関を作ることを決め、今年4月25日、全国を網羅する不動産登記の統一システムの構築が完了したと国営新華社通信が報じた。統一機関での統一登記が実現すれば、それは確実に不動産税徴収のデータベースになるはずだ。だが、今後、徴収プロセス作りがスムーズに進むとは限らない。中国の土地は、個人が所有することができず、あくまで金銭をもって70年間の使用権を得るだけだ。「期限付きの使用権であるなら、それは租借状態にあるのと変わりはない。そんなものに税金は払えない」という意見も少なくないからだ。という状況からすると、不動産税の徴収にはまだまだ紆余曲折がありそうだ。

中国国家発展改革委員会は2022年8月、同年中の地方特別債(インフラ債)について、7月末時点で3兆4500億元の発行額であることを明らかにした。今年も3兆8000億元規模という高水準のインフラ債発行が予定されており、地方政府財政がすぐに窮地に陥ることはなさそうだ。地方政府は今、都市周辺の農村居住者に対して、「都市区域でマンションを買って住まないか」と呼びかけ、都市の住宅過剰の解決を図っている。であれば、低収入が多い農村居住者は高額の物件は買えず、値引きを余儀なくされることになる。加えて、中国は一人っ子政策の影響で、労働者人口が減少傾向にある。住宅の潜在購入者が減れば、中長期的に不動産市況は冷めていくことになるのだろう。前途に明るさは見えない。


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