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第472回 南北朝鮮、「鉄原の夢」再び  直井謙二

第472回 南北朝鮮、「鉄原の夢」再び  直井謙二

第472回 南北朝鮮、「鉄原の夢」再び

韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩委員長の2回目の南北首脳会談が918日から平壌で行われ、アメリカのトランプ大統領が称賛するなどにわかに朝鮮半島の融和が進みそうだ。中間選挙を前にトランプ大統領は歴代の政権が成し遂げられなかったことだと強調した。確かに1年ほどの間に南北朝鮮や米朝関係は目覚ましく進展したが、過去にも和解に向けた進展と厳しい対立が交互に繰り返されてきた。核兵器放棄を表明しながら秘密裏に開発を継続していた北朝鮮。武力で北朝鮮の崩壊を狙うアメリカなど双方の不信感で交渉は揺れた。

1985年、アメリカ兵8人に護衛されながら初めて板門店を見学した時は凍てついた冬ということもあって南北融和など不可能だという印象を持った。南北が融和し和平への可能性を初めて感じられたのは故金永三韓国大統領と故金日成北朝鮮主席の幻の首脳会談だ。故金大中大統領がノーベル平和賞を受賞したことなどから20006月の第一回南北首脳会談が目立つが前任者の故金永三元大統領の時代にも首脳会談開催寸前まで和平の機運が盛り上がった。

故金永三元大統領は30年以上続いた軍事政権後が終わり初めての文民出身の大統領で北朝鮮がNPT核拡散防止条約離脱したため緊張が高まる中、南北首脳会談を模索した。韓国に取材に入ると南北和解と統一機運が現在のように高まっていた。

38度線の停戦ラインを挟んで伸びるDMA非武装地帯の中に「鉄原」がある。非武装地帯ということで普段は人影がないが和解と統一の雰囲気の中、「鉄原」で音楽会を開くという企画が韓国で持ち上がった。ソウルから車で非武装地帯に入り音楽会を取材した。朝鮮戦争末期、「鉄原」は停戦交渉を目前に控え少しでも領土を獲得しようと南北が激戦を交えた地域の一つだ。町は廃墟と化し、かつて北朝鮮の労働党庁舎だったビルも銃弾の跡だけが目立ちほぼ崩壊していた。(写真)

参加者は平和を呼びかける歌声が北朝鮮にまで届くようにという願いを込めて大声で歌っていた。歌声を聴きながら和平への感触を感じたが、会談目前の947月北朝鮮の金日成主席死去のニュースが突然流れた。北朝鮮は政権移譲を巡って緊張し、韓国の故金永三元大統領も交渉相手を失い一気に対決姿勢を強めた。

仮に金日成主席が急死しなかったとしたら南北首脳会談も開かれ和平と統一の道筋も違っていたのかもしれない。紆余曲折を経て「鉄原の夢」が再び巡ってきた。

《アジアの今昔・未来 直井謙二》前回  
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