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第470回 韓国映画「1987年ある闘いの真実」と思い出  直井謙二

第470回 韓国映画「1987年ある闘いの真実」と思い出  直井謙二

第470回 韓国映画「1987年ある闘いの真実」と思い出

現代の恋愛や歴史ドラマを描く映画が多い韓国で1987年当時の学生運動家が当局の拷問で死亡する事件を追った映画「1987年ある闘いの真実」がヒットしている。反政府デモをきっかけに朴槿恵政権が倒れる今の韓国の若者には想像もつかない時代だ。

全斗煥軍事政権下で学生運動は徹底的に弾圧された。映画では学生の不審な死を追及する看守や記者それに学生の姿を克明に描いている。学生運動家の朴鐘哲氏が死亡したのは1987114日。その年の暮れに軍出身の故盧泰愚氏が当選する大統領選挙が行われ筆者も取材した。

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帰国した民主化指導者の故金大中氏も大統領選に立候補した。写真は軍事政権を批判する金大中氏の選挙キャペーン会場だ。(写真)韓国の冬は寒く、野外の会場ではカップラーメンを売る即席屋台が出ていた。野党の会場では当局の催涙弾に注意しなければならない。韓国の催涙弾は日本の催涙弾とは比較にならないほど強烈だ。まともに浴びれば全く目が見えなくなり取材どころではなくなる。米軍仕様の防毒マスクを携帯し催涙弾に備えた。

野党の演説会だけではバランスのとれた取材は出来ない。明洞広場の会場には演壇が設けられ、与党盧泰愚候補演説の準備が整っていた。軍部をバックに大統領選を有利に進める盧泰愚候補の演説会場だけに催涙弾が発射されることはあるまいと防毒マスクを持参しなかった。盧泰愚候補が登場したので、演壇によじ登り盧泰愚氏をバックにレポートを始めた。レポートを始めて間もなく遠くでポンという軽い音がした。まさかと思う間もなく催涙ガスが演壇を覆い、レポートどころか何も見えなくなった。

ここは記者魂の見せ処、カメラマンがキブアップするまでは意地でも我慢しようと踏ん張った。そっと片目を開いてみるとカメラマンはすでにしゃがみ込んでいる。その姿を見たとたんレポートをあきらめしゃがみ込んだ。

一方、盧泰愚候補はひるむことなく最後まで演説した。鎮圧に来た軍警察から奪い取った催涙弾を学生が発射したことが後日分かった。

朝日新聞が韓国の急速な民主化を手本に中国にも期待をしたいというコラムを掲載した。ただほぼ同時期に民主化運動が起きたフィリピンも韓国も大国ではなくアメリカなどの影響を受けやすい。また中国は当時のフィリピンや韓国のように経済が停滞しているわけでもない。経済成長を続ける大国中国が民主化するまではまだ時間がかかりそうだ。

《アジアの今昔・未来 直井謙二》前回  
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