第629回 中国社会のデジタル化に驚きの連続―5年ぶり訪中見聞記(上) 伊藤努

第629回 中国社会のデジタル化に驚きの連続―5年ぶり訪中見聞記(上)
中国の中日友好協会の招きで11月半ば、日本ジャーナリスト訪中団の一員として5年ぶりに中国を訪れた。それまでほぼ年1回のペースで開催されてきたこの訪中取材プログラムが5年ぶりとなったのは、新型コロナ禍で中断を余儀なくされていたためだが、今回は以前の訪中時には必要がなかったビザ(査証)の取得が義務づけられ、その手続きの煩雑さに苦労するなど、新型コロナ禍の影響か、中国に入国する外国のビジネスマンや観光客に対する管理・統制が厳格になっていることを実感する機会ともなった。
2004年に活動がスタートした訪中団の主眼は、日本人ジャーナリストと中国側の研究者、識者との意見交換・討論による交流や地方視察を通じて日中両国間の相互理解を深めることで、筆者は2010年から参加しており、今回が7回目の中国訪問となった。

訪中団一行と中国外務省アジア局の幹部との懇談後の集合写真
◇ビザの免除復活の朗報、申請手続きの苦行から解放へ
11月半ばとなった筆者ら一行の訪問時まではまだ、中国訪問のビザ申請手続きに際して、東京、大阪、名古屋などにある中国ビザセンターでの正式の申請の前にオンラインで入力するビザ申請書を作成した上でビザセンターに送信し、さらにプリントアウトしたこの申請書を持参・提出することが求められた。ただ、このオンラインでのビザ申請書作成は、顔写真の張り付けなどパソコン操作での高度なスキルが必要で、簡単な作業ではないことに閉口させられた。特に難関の顔写真の張り付けでは、写真の背景が白色となるよう求められるなど、中国側の要求基準に合致した顔写真の添付でなければ、オンライン上で申請書の受理がはねつけられてしまい、その先の手続きにたどりつけないのである。
この作業では、お手上げ状態の筆者に代わって、私用パソコンが故障した際に相談に乗ってもらっているパソコン修理会社の技術スタッフに手助けしてもらったが、このスタッフもオンライン上での顔写真の加工には難儀していたところを見ると、かなりのパソコン操作スキルが要求される代物であるのは確かだった。中国外務省はその後、日本側の働き掛けを受ける形で、11月末から日本人に対する短期の訪中ビザを免除することを通告し、今後は上記のような煩雑な手続きから解放されることになったのは関係者にとって朗報だが、今回のビザ申請手続きでの四苦八苦の体験は長く忘れられぬ個人的な思い出となるだろう。
中国社会のデジタル化の進展と言えば、北京の空港ターミナルで訪中団のメンバーとスターバックスの店でコーヒーを注文したところ、店のスタッフから現金での支払いを拒否され、中国特派員経験者でモバイル決済用の「ウィチャットペイ」のユーザーだった同行者に立て替え払いしてもらう羽目になった。ただ、帰国時に空港内にある別の中国料理店でラーメンとビールを注文した際には人民元での支払いはできたので、店頭での現金決済が全く駄目というわけではないようだ。しかし、スターバックスで立て替え払いをしてくれた同行の北京特派員経験者は「中国での買い物や飲食の支払いはウィチャットや、もう一つのモバイル決済用のアリペイでの決済がほとんどで、これがないと中国では生活ができなくなりますよ」と忠告された。
ペーパレスのデジタル化の普及ぶりの経験はまだある。視察を終えた安徽省の宿州市から北京に戻る中国版新幹線の高速鉄道を利用した際、乗車予約などの手配をあらかじめ中日友好協会の担当者が訪中団メンバー一行のパスポート(旅券)の写しをパソコンで入手して済ませていたため、駅では乗車券も発券されないまま、旅券データを改札の専用機器に表示して駅構内に入り、列車に乗車できたことだ。前後するが、北京から安徽省の省都・合肥に国内航空便で移動する際も、北京空港でのチェックインは航空会社の係員の立ち会いなしの全自動での手続きで済ませた。これも初めての体験で、格安航空会社の便をよく利用しているというこの種の自動式チェックイン方式に慣れているという訪中団メンバーの1人の助けを得て、受け付け機器のディスプレー上の操作で何とかトランクを預け、搭乗券を入手することができた。現役の記者・デスク時代、多くの国に出張して仕事をこなした経験があるとはいえ、今では一線を退いたデジタル弱者のアナログ人間には、ビザ申請手続きを含め、中国への旅行の難度が格段に高いことだけは実感した。お節介ながら、中国に行く日本人旅行者にはこの種の場面に遭遇した際、スムーズに対応できるよう、特に筆者のようなデジタル機器の操作が不得手な人には事前の準備と対策が必要ではないかと思ったものだ。
次回は北京から国内航空便で1時間余りにあり、科学技術産業の振興を通じた経済発展の高度化を目指している安徽省の合肥で視察した中国有数の電気自動車(EV)メーカーと中国の音声認識大手の企業を視察した際の見聞を紹介したい。
11月半ばとなった筆者ら一行の訪問時まではまだ、中国訪問のビザ申請手続きに際して、東京、大阪、名古屋などにある中国ビザセンターでの正式の申請の前にオンラインで入力するビザ申請書を作成した上でビザセンターに送信し、さらにプリントアウトしたこの申請書を持参・提出することが求められた。ただ、このオンラインでのビザ申請書作成は、顔写真の張り付けなどパソコン操作での高度なスキルが必要で、簡単な作業ではないことに閉口させられた。特に難関の顔写真の張り付けでは、写真の背景が白色となるよう求められるなど、中国側の要求基準に合致した顔写真の添付でなければ、オンライン上で申請書の受理がはねつけられてしまい、その先の手続きにたどりつけないのである。
この作業では、お手上げ状態の筆者に代わって、私用パソコンが故障した際に相談に乗ってもらっているパソコン修理会社の技術スタッフに手助けしてもらったが、このスタッフもオンライン上での顔写真の加工には難儀していたところを見ると、かなりのパソコン操作スキルが要求される代物であるのは確かだった。中国外務省はその後、日本側の働き掛けを受ける形で、11月末から日本人に対する短期の訪中ビザを免除することを通告し、今後は上記のような煩雑な手続きから解放されることになったのは関係者にとって朗報だが、今回のビザ申請手続きでの四苦八苦の体験は長く忘れられぬ個人的な思い出となるだろう。
中国社会のデジタル化の進展と言えば、北京の空港ターミナルで訪中団のメンバーとスターバックスの店でコーヒーを注文したところ、店のスタッフから現金での支払いを拒否され、中国特派員経験者でモバイル決済用の「ウィチャットペイ」のユーザーだった同行者に立て替え払いしてもらう羽目になった。ただ、帰国時に空港内にある別の中国料理店でラーメンとビールを注文した際には人民元での支払いはできたので、店頭での現金決済が全く駄目というわけではないようだ。しかし、スターバックスで立て替え払いをしてくれた同行の北京特派員経験者は「中国での買い物や飲食の支払いはウィチャットや、もう一つのモバイル決済用のアリペイでの決済がほとんどで、これがないと中国では生活ができなくなりますよ」と忠告された。
ペーパレスのデジタル化の普及ぶりの経験はまだある。視察を終えた安徽省の宿州市から北京に戻る中国版新幹線の高速鉄道を利用した際、乗車予約などの手配をあらかじめ中日友好協会の担当者が訪中団メンバー一行のパスポート(旅券)の写しをパソコンで入手して済ませていたため、駅では乗車券も発券されないまま、旅券データを改札の専用機器に表示して駅構内に入り、列車に乗車できたことだ。前後するが、北京から安徽省の省都・合肥に国内航空便で移動する際も、北京空港でのチェックインは航空会社の係員の立ち会いなしの全自動での手続きで済ませた。これも初めての体験で、格安航空会社の便をよく利用しているというこの種の自動式チェックイン方式に慣れているという訪中団メンバーの1人の助けを得て、受け付け機器のディスプレー上の操作で何とかトランクを預け、搭乗券を入手することができた。現役の記者・デスク時代、多くの国に出張して仕事をこなした経験があるとはいえ、今では一線を退いたデジタル弱者のアナログ人間には、ビザ申請手続きを含め、中国への旅行の難度が格段に高いことだけは実感した。お節介ながら、中国に行く日本人旅行者にはこの種の場面に遭遇した際、スムーズに対応できるよう、特に筆者のようなデジタル機器の操作が不得手な人には事前の準備と対策が必要ではないかと思ったものだ。
次回は北京から国内航空便で1時間余りにあり、科学技術産業の振興を通じた経済発展の高度化を目指している安徽省の合肥で視察した中国有数の電気自動車(EV)メーカーと中国の音声認識大手の企業を視察した際の見聞を紹介したい。
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