第631回 安徽省に拠点構える大手EV企業の独自戦略―5年ぶり訪中見聞記(中) 伊藤努

第631回 安徽省に拠点構える大手EV企業の独自戦略―5年ぶり訪中見聞記(中)
中国の中日友好協会の招待による日本ジャーナリスト訪中団の日程には、首都北京での中国側研究者らとの意見交換を終えると、短期間の訪問日程を割く形で地方への視察が組み込まれており、今回は中国の最先端技術の開発・生産の重要な拠点の一つとなっている安徽省の省都・合肥を訪れた。
安徽省は北京から空路で1時間余、中国版新幹線の高速鉄道では3時間半ほどにある内陸の省で、河南省や江蘇省などの有力な省と接している。人口は6,100万人で、国内総生産(GDP)の規模では中国全土31省(直轄市を含む)中、10位にランクされ、主要産業である農産物生産とともに近年は家電、自動車などの製造拠点ともなっている。同省には、中国の科学技術教育の拠点として知られる中国科学技術大学もあり、省都の合肥には電気自動車(EV)や人工知能(AI)産業、液晶パネル生産、半導体記憶装置製造の有力企業が拠点を置いている。
合肥では、中国の大手EVメーカーで、中国版テスラともいわれる「上海蔚来汽車(NIO=ニーオ)」の生産工場と音声自動翻訳のソフトなど人工知能(AI)サービスを提供している世界的企業「科大訊飛」(アイフライテック)の展示施設を視察した。
最初に訪れた上海蔚来汽車は、中国の新興EVメーカーの「御三家」の一角として知られ、EVの動力源としてプラグ式のバッテリー充電方式ではなく、車に搭載する固体式のバッテリーそのものを交換する方式のEVだけを生産している。「NIO」のブランドで販売されている同社製のEVにおける最大の特徴は、時間がかかり、ユーザーには不評のバッテリーを充電する必要がなく、専用の交換型バッテリーを搭載してして走行するという点だ。
◇全自動の搭載バッテリー交換はわずか5分、500キロ走行
中国の国内各地に設置されている固体式バッテリー交換所の前に車両を駐車し、充電ボタンを押せば、自動運転で車両が交換所内に入り、交換所の機械が車両を持ち上げ、車両下部にあるバッテリーを取り外し、完全に充電されたバッテリーを設置する。バッテリーを交換すれば、満タンにしたガソリン車の走行距離には及ばないものの、400―500キロの走行が可能だ。
視察した同社工場の一角に設置されたバッテリー交換所では、一連の交換・搭載作業が全自動で行われる様子を見学した。バッテリー交換・搭載にかかる時間は5分以内で、EVのドライバーにも時間の節約となる。同社では、2018年5月に中国で初のバッテリー交換所を開設した後、これまでに1000カ所以上の交換所を設置し、稼働中とのことだった。
EVの利点は、地球温暖化の原因ともなる二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出がゼロと環境にやさしいことに加えて、エンジンなどの内燃機関が不要となるため、ガソリン車に比べ、EV生産に必要な自動車部品が格段に少なくて済むことがある。
工場では、創業以来過去10年間に開発・生産された高速走行のレーシングカーを含むさまざまなタイプの車種が置かれた展示ルームを見学した後、隣接する生産ラインを見て回った。現在はすべてオーダーメードで受注生産しているというEVの車両が流れ作業で次々と組み立てられていき、取り付け部品が少なくて済む分、組み立ても容易であることが推察できた。

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