第298回 東南アジアのデング熱事情 直井謙二

第298回 東南アジアのデング熱事情
2014年夏、代々木や新宿など都心でデング熱にかかる人が増え、大きな社会問題になった。デング熱にかかると高熱が続き発疹ができることなどメディアは大々的に報じた。デング熱が風土病の東南アジアでは公園が封鎖され大々的な消毒が行われることはほとんどない。
デング熱は命にかかわることが少なく、回復すればマラリアなどと違って後遺症が残らない。それでもデング熱が猛威を振るい、珍しくニュースになったことがあった。
1997年7月、タイの通貨バーツ暴落に端を発したアジア通貨危機はたちまち東南アジア諸国に広がり、それまで10%近い高度経済成長を続けていた各国は大不況に陥った。ビルや高速鉄道の建設がストップし、工事現場から人影が消えた。
アジア通貨危機の発祥国であるタイの首都バンコクでも工事が中断されたビルが遺跡のように無残な姿をさらし、高度経済成長のシンボルだった高速鉄道の橋脚だけが残された。(写真)建設現場には工事で掘られた穴が放置され、雨水がたまり、蚊が猛烈に発生し、デング熱が蔓延した。それでも公園やゴルフ場が封鎖されることはなかった。猛烈な蚊の襲来を受けてスコアなどそっちのけで逃げ、林に球を打ち込んで何か所も蚊に刺されたこともあった。デング熱が風土病の国とめったに発生することのない国との差だが、今さらながら感染しなかったことに胸をなでおろしている。

東南アジア諸国のなかでも衛生観念の進んでいるシンガポールはデング熱対策として、徹底的に水溜りをなくし媒介する蚊の発生を防ぐ厳しい対策をとっている。たとえ個人の家であろうとビンや空き缶などが放置されていれば、高額の罰金を課せられるのだ。
人事異動でシンガポールからバンコクに移ってきた同業他社の特派員はバンコクに着いた瞬間、蚊に襲われたと驚いていた。それでもシンガポールもデング熱の脅威から無縁にはならない。領土が少なく資源に恵まれないシンガポールにとって、優秀な人材は貴重な財産、デング熱の蔓延で生産性が下がることがカントリーリスクのようだ。
国際的なイベントなどが開かれる代々木公園でデング熱が発生したことからアジアから送られてきたイベント用の荷物のなかに蚊がまぎれた可能性があると指摘された。しかし、アジア諸国のイベントはずっと以前から代々木公園で開かれている。近年、観光ビザの発給が緩和され来日するアジア人観光客が増加している影響も考えられるのではないか。
写真1:中断されたバンコクの高速鉄道工事
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