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第242回 政争にさらされる世界遺産プレアビヒア 直井謙二

第242回 政争にさらされる世界遺産プレアビヒア 直井謙二

第242回 政争にさらされる世界遺産プレアビヒア

カンボジアとタイの国境を分けるダンレック山脈の頂上に世界遺産に指定されたアンコール遺跡、プレアビヒア寺院がある。カンボジア紛争でポルポト派兵士が軍事拠点として占拠していたため、長い間立ち入ることができなかった。紛争解決後、絶好の観光地となったプレアビヒア寺院をめぐってタイとカンボジアが対立したことは4年前「アジアの昨今・未来」の第2回目の「世界遺産を巡るタイとカンボジアの銃撃戦」で触れた。タイとカンボジアが領有権を巡って対立、タイの政争も絡んで4年たった今もプレアビヒア寺院はいぜんとして安静を取り戻すことができていない。

オランダのハーグにある国際司法裁判所は1111日、プレビヒア寺院と近接する土地の一部について、カンボジアへの帰属を認める判決を出した。これに対しタイの世界遺産委員会はピタヤ委員長が近接する一部の土地について判決は大まかなものだと反発、カンボジア遺産管理計画を提出してもタイはあらゆる手段を用いて反対する意向を表明した。

タイのタクシン元首相はカンボジアと友好な関係を築くことを目指し、プレアビヒアの領有について柔軟な姿勢を示していた。軍事クーデターで失脚しタクシン元首相が国外に追放された後政権についた民主党のアシピット前首相はタクシン元首相が自らのカンボジアでのビジネスを成功させる思惑があったとしてプレアビヒアの領有に強硬な姿勢を示した。

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現在、野党民主党とタクシン元首相の妹にあたるインラック首相率いる現政権は政府によるコメの買い上げ制度やタクシン元首相への恩赦などを巡って激しく対立している。政争に呼応してバンコクではタクシン元首相を支持する赤シャツ市民と反タクシンの黄シャツ市民がデモを繰り広げた。

プレアビヒア問題がタイの政争に油を注ぐ懸念もある。プレアビヒアは9世紀に建立されたヒンズー寺院だ。ダンレック山脈を神が降り立つヒマラヤにトンレサップ川をガンジス川に見立てて建立さされとされるプレアビヒア寺院はいわば聖地に建つ重要な寺院で歴代のアンコールの王たちは護国豊穣を願って参拝を欠かせなかったといわれる。内戦時にはポルポト派に軍事拠点として使われて砲弾を受け、内戦終了後もタイとカンボジアが領有権を巡って銃撃戦を繰り広げ、さらにタイの政争の具にもされるプレアビヒア。アンコールの王たちはプレアビヒア寺院を取り巻く現在の情勢をどう見るだろうか。


写真1:観光客で賑わうプレアビヒア寺院

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