1. HOME
  2. 記事・コラム一覧
  3. コラム
  4. 第234回 タイ南部でゴム園農家デモ拡大の懸念 直井謙二

記事・コラム一覧

第234回 タイ南部でゴム園農家デモ拡大の懸念 直井謙二

第234回 タイ南部でゴム園農家デモ拡大の懸念 直井謙二

第234回 タイ南部でゴム園農家デモ拡大の懸念

タイ南部で天然ゴムの生産に従事している農民らが政府の農業政策を不満としたデモが頻発し大きな社会問題に発展しそうだ。タイ南部はイスラム武装ゲリラによるテロが収まる気配を見せず、タイ政府は頭を抱えている。

タイ南部トラン県のゴム農家を取材した時のことである。(写真)ゴム農家の労働と生活は厳しい。深夜、ゴム農園に出かけ、ゴムの木の幹にナイフで何本も傷を付ける。すると木の幹の傷から白いゴムの原液が出てくる。原液がたれるあたりに小さな受け皿をつける。広い農園に林立しているすべてのゴムの木に傷をつけ受け皿を設置し終わる頃、空は白々と明けてくる。自宅に戻り、数時間の仮眠を取ったあと再び農園に出かけ、ゴムの原液がたまった受け皿を回収し原液を集め出荷するのだ。

第248回 直井.jpg

激しい労働にもかかわらずゴム原液の出荷価格は低く、一家総出で働いても月収はおよそ3000バーツ、日本円で1万円程度にしかならない。このため現金収入を得るため、義務教育中の子供が都会に出て働かなくてはならない家庭も少なくない。タイ政府は農園の栽培面積に応じて補助金を出すことで事態を収めたい考えだが、農民は拒否しデモは拡大の様相を見せ、道路や鉄道の封鎖が続き、タイ社会に大きな影響を与え始めた。

ゴム農家がインラック政権に不満を募らせる理由は政府によるコメの買い上げ政策も影響しているようだ。コメの買い上げで政府の財政支出が増え、タイ米の国際競争力が落ち、コメの国タイのコメの輸出額はインドやベトナムに抜かれ3位に転落した。それでもコメの買い上げを止められないのはインラック政権の大票田である北部タイや東北タイのコメ農家への配慮が欠かせないからだ。

一方、政府買い上げから見放された南部ゴム農家の不満は募るばかりだが、政府も財政上簡単にゴム農家の要求に応じるわけにはいかない。

十数年前、南部出身のチュアン元首相が率いる民主党が政権を担っていた。貧しい家庭に育ち清廉なイメージだったチュアン政権から大富豪と汚職のイメージが抜けない北部出身のタクシン政権に変わったタクシン首相は汚職などを理由に軍によるクーデターで失脚したが、タクシン元首相の妹に当たる現職のインラック首相も北部や東北部が票田だ。

南部ではイスラムの独立を求め、テロを重ねる武装勢力の動きも続いている。南部社会の混乱は武装勢力にとっては有利な材料になる。インラック政権は当分南部対策に追われそうだ。


写真1:原液採取で傷ついたゴムの幹

《アジアの今昔・未来 直井謙二》前回
《アジアの今昔・未来 直井謙二》次回
《アジアの今昔・未来 直井謙二》の記事一覧

 

タグ

全部見る