第524回 ベトナム戦争化するアフガニスタン 直井謙二
第524回 ベトナム戦争化するアフガニスタン
アフガニスンのタリバンとアメリカの和平協定が今年の2月末に結ばれた。アフガニスタンからの米軍の撤退を公約に掲げたトランプ大統領は大統領選挙を11月に控え、前回の選挙の公約を果たしておきたかったようだ。
和平合意でアメリカは暫時兵力を撤退させ2021年までに撤収を終えると表明し、和平に向けたアフガニスタン内部の協議を求め、アフガン戦争の大義であったアルカイダなどテロ集団の排除と共にタリバン兵士や政治犯捕虜の解放などが盛り込まれた。
名誉ある撤退を目指し、形ばかりの和平協定を結び現地政府を置き去りにする点がベトナム戦争の終結と似ている。かつてはベトコンを蔑みテロリストとして扱っていた南ベトナムの解放勢力も1972年のパリ平和交渉の代表の一人として参加させ、アメリカは米軍撤退ありきの交渉を余儀なくされた。かろうじて体面を保った和平交渉案が調印されるとアメリカ軍はベトナムから素早く撤退した。1975年、アメリカの支援を失った南ベトナム政府はあっという間に崩壊した。
ベトナムとアメリカの対立は1954年のジュネーブ協定を巡って始まったが、20年の戦闘で6万人の死者を出しアメリカは政治的に破綻した。アフガン戦争もおよそ20年で大統領選という政治的な理由で撤退に追い込まれた。ベトナム同様タリバンが政権を取り返す可能性も否定できない。
不思議なのはアメリカの敵である南ベトナムの解放勢力もタリバンも直接会うと伝えられるよりも穏やかで親切なことだ。2000年の1月に取材でアフガニスタンに入りタリバン兵士から親切にされ食事をご馳走されたことはすでに書いた。(小欄第512回 アフガニスタンの和平とタリバン)アメリカがベトコンと口を極めて非難した南ベトナム解放勢力の女性リーダーの故グエン・ティ・ディン氏もタリバン同様穏やかで親切だった。自宅を訪ねインタビューしたが、女性闘士という印象はなく街でよく見かけるおばちゃんだった。厳しい戦闘で北の兵士は多くがマラリアに罹っていて寝ずに看病したことなど当時の苦労話を温和な口調で語ってくれた。インタビュー後、食事が用意されていて恐縮した。(写真)
ベトナムとアフガニスタンの戦争ではアメリカは20年の長期にわたる膨大な軍事費と人的被害で世論が次第に変化し政治的に撤退に追い込まれた。トランプ政権は米中の軍事経済の対立に加え、コロナウイルス惨禍の責任を中国に求めている。3番目のアメリカの失敗がないことを祈りたい。
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