第90回 喫煙者の低年齢化に悩むインドネシア 直井謙二

第90回 喫煙者の低年齢化に悩むインドネシア
一方、ジャワ島のマランでは4歳のサンディちゃんが1日20本のたばこを吸っていたが、1カ月間入院して禁煙し、ニコチン中毒から解放された。
インドネシアでは喫煙を年齢によって規制する法律がないことから、10歳以下の喫煙者が3%を超える。子供ばかりでなく、国民の3割の6500万人が喫煙する喫煙大国だ。NGOが規制を求める中、たばこ産業に依存している労働者が500万人を超え、政府もなかなか重い腰を上げようとしない。
インドネシアで吸われるたばこは、「クレテックたばこ」が多い。クレテックは香料のグローブなどを混ぜたたばこで、独特の香りがする。
グローブはもともと、料理や治療薬として使われていた。16世紀の大航海時代に入ると、香料を求め、インドネシアを支配していたポルトガルが東インド会社を核としたオランダに圧迫され、インドネシアの支配権を奪われる。
インドネシアの香料の島、モルッカ諸島の海岸にはポルトガルとオランダが築いた砦(とりで)が残っている。海岸に近い小さい砦はポルトガルで、その砦を見下ろすように建つ背後の大きな砦はオランダの砦だ。こうした砦を見るだけで、当時の歴史を感じることができる。
最初にアンボンを支配したオランダ人は、アンボン人を使ってインドネシア全体の支配を開始した。このため、アンボン人にはキリスト教徒が多く、町のあちこちに教会を見ることができる。
また、アンボンの港には巨大な十字架が掲げられている。(写真) アンボン人はオランダ人に協力したため、他のインドネシア人から「黒いオランダ人」と呼ばれ、今でも多数派のイスラム教徒のインドネシア人と抗争を起こしている。

オランダはアンボンに新たにグローブを移植し、収穫ができるようになると、他の島々の島民の生活はお構いなしにグローブを切り倒し、グローブの価格をつりあげた。こうした軋轢(あつれき)を避けるためと思われるが、インドネシア国内にもかかわらず、アンボンには入国管理事務所と税関があった。
グローブが珍重され、医薬品でもあったことから、クレテックたばこの有害性は否定され、喫煙者の低年齢化に拍車を掛けている。インドネシアには独自のたばこ文化を守るべきだとする意見が根強い。
写真:アンボン十字架と海
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