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第86回 被害が拡大するムラピ山噴火 直井謙二

第86回 被害が拡大するムラピ山噴火 直井謙二

第86回 被害が拡大するムラピ山噴火

噴火を繰り返し、人命や世界遺産に甚大な被害を与えてきたインドネシア・ジャワ島中部のムラピ山が9月末にまた噴火し、11月中旬までに死者が240人に達し、約40万人が避難した。

ムラピ山に近い古都ジョクジャカルタは仏教遺跡のボロブドール(写真)や、ヒンズー寺院のプラバナン遺跡がある観光都市だが、観光産業への影響も懸念されている。

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噴火して1カ月以上たっても犠牲者が出るのは、ムラピ山のふもとで多くの住民が農業や畜産で生計を立てているからだ。耕作地や家畜を失うことは生活基盤を失うことであり、農民は少しでも噴火が小康状態になると、避難場所を抜け出し、自宅に戻ってしまう。中には噴煙や火砕流が見える昼間は自宅に戻り、夜は避難所で眠る農民もいる。

自宅に戻るかどうかの判断も、イスラム王朝の末裔のスルタンの予言やムラピ山に生息する鳥やネズミなどの動物の動きなどから判断しているのが実情だ。日本からも国際緊急援助隊がジョクジャカルタ入りし、噴火や火砕流の観測に乗り出した。今後の火山活動や噴煙による健康被害の調査に期待がかかっている。

ムラピ山は数年ごとに噴火しており、1994年には外国人観光客も死亡している。今回の噴火はここ数十年の中では最も激しいとされているが、926年の噴火では火砕流や火山灰でボロブドール遺跡が埋まり、1814年、イギリスのラッフルズが発見するまでおよそ900年間、その存在が分からなかったと言われている。

ボロブドール遺跡にはアウトリッガーのついた大型帆船の壁面彫刻が刻まれていて、インドから中国までの海のシルクロードの拠点だったことを証明する貴重な遺跡だ。遺跡は一辺が120メートル、高さは42メートルに達する巨大遺跡であることから、926年の噴火は想像を絶する規模だったと思われる。

今回の噴火でも大量の火山灰がボロブドール遺跡などにも降りかかり、仏像の灰の取り除きに追われている。

ムラピ山の噴火による地震も心配されている。2006年のムラピ山の大噴火直後の5月27日にはマグニチュード(M)6.3の地震が起き、5700人が死亡し、3万人が負傷した。この地震で9世紀に建立されたヒンズー寺院、プラバナン遺跡の一部が崩壊した。

プラバナン遺跡には2000年前のインドの叙事詩、ラーマーヤナ物語を伝える石碑が残っていて、プラバナン遺跡もインド文化が中国まで伝わったことを示す貴重な痕跡を残している。一刻も早く、ムラピ山の噴火が収まることを願うばかりだ。


写真:仏教遺跡のボロブドール(写真)

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