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ゼロコロナの都市封鎖から一転緩和措置へ、感染拡大により経済活動は依然厳しい見通し(下) 日暮高則

ゼロコロナの都市封鎖から一転緩和措置へ、感染拡大により経済活動は依然厳しい見通し(下) 日暮高則

ゼロコロナの都市封鎖から一転緩和措置へ、感染拡大により経済活動は依然厳しい見通し(下)

<感染拡大>

いずれにせよ、党中央の号令一下、封城が解除された。これまでの反動で住民は感染防止に無頓着となるため、勢い感染は拡大していく。強制的なPCR検査がなくなったことで、当局は実質的に感染蔓延地区も、感染者数も把握できなくなった。ただ、ラジオ・フリー・アジア(RFA)が12月14日、報じたところによれば、匿名を条件に話し出した北京のある医師は「過去1週間で北京には22万人程度のPCR検査陽性者が出ており、さらに増加傾向にある」と暴露した。感染者が病院に担ぎ込まれて、医師や医療機関従事者には感染者が出ている。さらには、コロナ以外の受診者、例えばがん患者の定期健診、透析を受ける人たちが病院に来られない状態にあり、医療崩壊の危機に直面しているという。ある意味、コロナが最初に流行した2020年初頭に戻った感じである。

当局が感染実態を把握できていないとなると、住民は限りない不安に陥るものだ。12月10日付の現地紙「北京日報」によれば、国家衛生健康委が管轄している北京救急センターの救急電話番号「120」には毎日5000-1万件の通話があるという。救急医師は「電話して来る人のほとんどがPCR検査で陽性になったものの無症状の人、あるいは軽い症状の人。発熱くらいで救急車を要請すれば、肝心の重症者を病院に連れて行くことができなくなる」と嘆き、「軽症者は自宅で養生してほしい」と呼びかけている。

自らの足で病院に行っても、発熱外来診療科は長い行列。建物内に入れない人は外で待つしかないが、北京では零下6度の寒空で5~6時間待たされるのは酷だ。感染者が寒空の中にいれば、却って病状を悪化させてしまうだろう。このため、重症でも病院に行けない人、軽症程度の人は市中の薬局に走り、イブプロフェン(布洛芬)、アセトアミノフェン(乙醯氨基酚)などコロナに効くと見られる感冒薬、解熱薬、のど薬を買い求めることになる。鐘南山医師が言うように季節性のインフルエンザと同じであるなら、市販薬で十分間に合うのかも知れない。だが、感染者が多くなれば、薬局の薬も底を付く。購入できない人が出て来る。このため、海外に知り合いのいる人は海外での購入を頼むが、そういう中国人が多いせいか、オーストラリアでは、薬局が当該薬品の購入制限をしているという。

驚くことに、目的の薬品が購入できない人は、黄桃の缶詰を買っている。「桃(tao)」の発音、声調が「逃」と同じであり、病気から逃げたいという願いが込められているからだという。2011年に福島第一原発の放射能漏れ事故があった時には、放射能を除去するには塩が効くとばかりに中国では食塩を大量購入する人が多く現れ、スーパーの棚から一時食塩が消えたことがあった。確かに安定ヨウ素剤を服用すれば、体内の放射能集積を防げる。食塩にはヨウ素が含まれており、あながち無関係ではないが、黄桃には語呂合わせ以外に何もない。米系華文ニュースは「黄桃に薬効があると本当に思っている人は少ないが、語呂合わせに賭けているようだ」と言う。信じる者は救われるということか。黄桃の缶詰を食すると、熱や痛みを和らげそうな感じがあるが、実はむしろ逆効果しかないそうだ。

もともと中国製のワクチンは接種効果が薄い。しかも特に老人らへの接種率が低く、新華社が言うように全体9割には達していない。ワクチン接種をしていないと重症化しやすく、合併症で亡くなる人も出てくる。このため、封城解除で感染拡大したことで、死者も増えた。米系華文ニュースが12月16日報じたところによれば、北京ではすべての葬儀場、火葬場が満杯状態になってしまっている。火葬場は24時間のフル操業になったが、コロナ陽性者が自宅で亡くなった場合、火葬場の職員は感染を恐れ、家まで行って遺体を収容することはしない。そのため、遺族自らが車を手配し、北京市の東郊外にある火葬場まで遺体を持ち込む。だが、死者が多いため、遺族はたとえ早朝に持ち込んでも、午後2時すぎまで乗車したまま長い時間待たされるという。また、陽性者は死亡後24時間以内に荼毘に付すよう義務付けられているため、遺族は告別式ができない。身内が亡くなっても悲しんで別れを惜しむ時間はないのだ。

<経済の現状と今後の見通し

3年続くコロナ禍への対策として、とりわけ経済発展都市である上海や深圳、広州で都市封鎖が行われたことは経済活動を著しく停滞させた。国家統計局のデータでは、今年11月の輸出総額2961億ドルは昨年同月比で8.7%の減。今年になって毎月前年比でマイナスを続けてきたが、その前年比マイナス幅が今年3月以来一番大きかったのは11月であった。貿易黒字額は10月の851億ドルから11月は698億ドルと約18%の減となった。ちなみに、今年11月の対米輸出額は408億ドルで、昨年同月の547億ドルから25%減と大幅ダウン。今年10月(470億ドル)と比べても、約13%の減となった。対EUへの輸出額では、11月が448億ドルで前年同月の501億ドルに比べて1割マイナス、日本、韓国、台湾に対してもそれぞれ5.6%、12%、20%のマイナスとなった。

封城で人が動かず、消費活動は衰えたが、それにも増して封城に伴って工場が操業停止となったことが大きい。中国の貿易黒字、輸出の伸びに貢献してきた製造業が大打撃を受けた。外資系企業では「中国とのサプライチェーンは不確実性が高まった」として工場撤退などを考えるところが多くなっている。これは必ずしもコロナ封城だけでなく、労働コストの上昇や台湾海峡の軍事的緊張などから来る要因もあるが、封城で外国人の入境が制限され、物資の運送が滞ったことが引き金になったことは間違いない。一方、消費活動はどうか。民衆は封城解除で基本的に外出が自由になったが、それでも買い物や娯楽を求めて街に出る人は少ない。封城の反動で感染拡大が起き、病院は満杯、死者も多数出ているとの情報が伝わったからだ。街頭行動で「封鎖は止めろ」と言っていたのに、封城解除となっても外に出ないのは皮肉な結果である。

来年(2023年)の経済政策や成長目標を審議するため、12月6日に党中央政治局会議、15,16の両日に党中央経済工作会議が開かれた。習近平主席は「安定的な成長を図り、経済を好転させる。防疫態勢と経済発展の総合的な調整を図る」と述べるにとどまり、自身が強力に進めてきたゼロコロナについては一言も触れなかった。これを見る限り、習主席もゼロコロナによる経済へのマイナス影響を十分認識したからではなかろうか。来年3月の全人代で総理就任が見込まれている李強政治局常務委員が経済工作会議の総括演説を行ったが、この中で来年の経済成長目標値などを提示しなかった。実際にコロナ感染が終息しない時点で、明るい見通しなどは言いにくかったのかも知れない。

中国のエコノミストによれば、今年(2022年)の通年経済成長率は最終的に、事前の目標値5.5%を大きく下回り、近年最悪の3%前後になりそうだと言う。来年はどうか。やはり、成長のエンジンになるのは輸出だが、そのためには西側諸国と良好な関係を保つことが最優先だ。習主席が再びコロナ対策で極端な封鎖策を取らないことに加えて、ウクライナに侵攻したプーチン・ロシア大統領を“反面教師”として、台湾海峡で軍事的な緊張を引き起こさなければ、コロナとの“共存”を図る形で、少なくとも今年の3%以上の成長率は確保されそうである。

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