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第615回 野球部後輩の高校生が開いた「少年野球教室」 伊藤努

第615回 野球部後輩の高校生が開いた「少年野球教室」 伊藤努

第615回 野球部後輩の高校生が開いた「少年野球教室」

最近、母校の高校野球部の現役部員諸君が県下の大会で好成績を収めたというわけではないが、日頃の地道な部活動が評価されて伝統ある賞を受けたり、その延長とも言える地域貢献活動の「少年野球教室」の開催がメディアで取り上げられたりすることが相次いだ。50年以上も前に白球を追う日々を過ごした元高校球児でもある筆者にとっては、少しばかり驚くような意外な出来事でもあったので、今どきの高校生の野球部員らによる自主的な部活動の取り組みとして、その一端を紹介させていただく。

グローブを全国の小学校に寄贈した大谷選手
米大リーグで2年連続のMVP(最優秀選手)を受賞するなど、「投打の二刀流」として大活躍の大谷翔平選手(エンゼルスからFA権を行使して今季はドジャースに移籍)が昨年11月、日本全国の約2万校の小学校に計6万個のグローブ(1校当たり3個)を寄贈したことは大きなニュースとなった。大谷選手が日本の少年たちにグローブをプレゼントしたのは、子供たちに少しでも野球に関心や興味を持ってもらいたいとの思いからだったと聞く。少子化の影響もあって、少年野球を楽しむ子供が昔に比べて減っていることに危機感を持っていたことも動機の一つだったようで、大谷選手にしてみれば、プレゼントしたグローブで学校の放課後などに友だちとキャッチボールをして、野球の楽しさを知ってほしいということだろう。

さて、大リーグで活躍する日本人スター選手のプレゼントに刺激を受けたわけでもあるまいが、母校野球部の現役選手諸君が子供たちに野球の楽しさ、面白さを知ってもらおうと、近隣の野球チームに在籍する小学13年生の子供たちに参加を呼び掛け、「野球交流イベント」と銘打った野球教室を開いた。70年近い野球部の歴史始まって以来初めての取り組みだが、まだ寒い1月下旬の日曜日、母校の広いグラウンドには120人の小学生が現役部員の企画・運営による野球教室に参加した。

「野球人口拡大のために何ができるか」を探求
普段は公式戦での勝利を目指して猛練習に励む野球部員たちは、学校の通年科目「総合的な探求の時間」の授業の課題研究の一環として、野球をテーマに選んだといい、その理由の一つが「日本の野球人口拡大のために私たち高校生ができることは何か」ということだった。

母校の野球部は、サッカー部やバスケット部など他の運動部と部員集めで競合関係にあるためか、長年にわたり部員不足に悩んできた歴史もある。今回、野球教室を企画した高校12年生の新チームの部員が試合ができる9人ぎりぎりになってしまっていたため、企画イベント幹事役の2年生は「野球人口の減少を身を持って感じたことも、テーマ選びのきっかけになった」と話していた。

野球教室の開催に当たっては、事前に野球をしている小中高生の保護者らにアンケートを行い、約450人から回答を集めた。アンケートの結果の中で部員たちが注目したのは、「野球を始めたきっかけ」で、「友だちに誘われて」が最も多く、「始めた時期」は小学校低学年というのが約半数だったため、今回の野球交流イベントでは小学13年生の子供たちにアプローチしていくことを決めたという。

野球教室では、「打つ」「投げる」「守る」の三つの部門で、それぞれの目標の達成度に応じてポイントがもらえるゲーム形式で行った。コーチ役の高校生がそれぞれの部門でプレーを先導し、場を盛り上げることができたのは子供たちにも楽しい思い出となったに違いない。今回の野球教室の開催が近い将来の少年野球人口の増加につながるかどうかは分からないが、高校野球を通じてチームの勝利至上主義だけに関心が向くのではなく、野球人口の裾野拡大に貢献しようとする部活動の取り組みは、部員たちにとっても貴重な体験として将来に生かされることだろう。

明大ラガーマンも小学生にラグビー教室
この母校の高校での少年野球教室の開催を知ってから数日後、大学ラグビーの名門・明治大学ラグビー部が創部100年を迎えたのを記念して、都内にある合宿所近くの小学校に何人かの現役部員が出向き、ラグビー教室を開いて男女の小学生と交流している様子をたまたまテレビのドキュメンタリー番組で見る機会があった。小学生にとっては、どこに転んでいくか分からない楕円形のボールを扱うラグビーは走ったり、相手チーム選手に体当たりをしたりと野球以上に難しいスポーツだと思うが、明大の若きラガーマンたちはボールのパスやタックルなど、ラグビーならではプレーの醍醐味を上手に伝えていた。そして、少年少女たちに繰り返し訴えたのは、伝統ある明大ラグビー部の部訓ともなっている「前へ」の合言葉で、「前を向くことの大切さ」はラグビー教室に参加した小学生にもよく理解されたようだった。いずれにせよ、どのようなスポーツも子供たちへの魅力アピールを競い合う時代を迎えているということを実感した。

さて、話を戻させていただくと、母校の高校野球部の部活動としての新たな地域貢献などの取り組みは、神奈川県教育委員会が審査・選出する令和5年度の「かながわ部活ドリーム大賞」のグランプリを受賞し、野球部からは昨年夏の県大会を最後に引退した第66期チームの主将がキャプテン賞を、現役部員を長年にわたり物心両面で応援してきた野球部OBOG会がサポーター賞をそれぞれ授与された。孫のような世代の後輩の現役部員には、今回の部活ドリーム大賞の受賞も励みにして、甲子園を目指す夏の地方大会に向け、日頃の練習で鍛えた野球選手としての技量やチームワークを晴れの舞台となる対戦相手との試合で存分に発揮してほしいと願うばかりだ。

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