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第299回 中東が専門だった元外交官Tさんの深い見識 伊藤努

第299回 中東が専門だった元外交官Tさんの深い見識 伊藤努

第299回 中東が専門だった元外交官Tさんの深い見識

多くの日本人になじみの薄い中東も広い概念での地域分けではアジアに属する。中東の有力国であるトルコはボスポラス海峡を挟んで西側が欧州部、東側がアジア部といわれるし、サッカーのワールドカップ(W杯)のアジア予選は中東のアラブ諸国の大半がこの予選に参加していることからもお分かりいただけよう。

ということで、中東の広い地域は西アジアとも呼称され、東アジア(昔の言い方では極東)に位置する日本と同じアジアに属する同じ「アジア人」なのだが、この地域は日本とも遠く離れ、宗教や文化的伝統、人種などが異なるため、理解するのはなかなか難しい。現在、60代の筆者の記憶では、学生時代1970年代に2回にわたる石油ショック(産油国が外交手段として大幅な価格引き上げと減産に踏み切り、石油価格が急騰した)が日本経済を直撃し、それ以降、アラブや中東の政治、経済、社会などについて大きな関心が寄せられるようになった。

今では、世界史的出来事となった石油ショックから40年以上がたつ現在も、私たち日本人のアラブ・中東世界に対する知識、理解はそれほど深まっていないように思われる。筆者の昔の職場にもカイロやエルサレムの特派員経験者で、中東情勢を主にカバーする専門の同僚記者が何人もいたが、取材して記事にするのは対立国同士の紛争や外交交渉といったテーマが中心で、宗教や文化、民族について深く突っ込んだ話などを聞くことはほとんどなかった。忙しいせいもあったろうが、今にして思えば、もったいない。

昨年来の中東の過激組織「イスラム国」の台頭もあって、そのようなことを振り返っていた折に、かつて外交官として中東地域に駐在経験があるTさんと話をする機会があった。既に70代半ばのTさんは昭和30年代半ば(1960年前後)に外務省に入省後、アラビア語研修組に回り、外交官の歩みを中東専門家として始めた。サウジアラビアのリヤド、レバノンのベイルート、エジプトのカイロなどに駐在し、大使館を拠点にして情報収集や地域情勢の分析に従事した。Tさんは結局、外交官の職を任務途中に辞し、その後、企業専門の弁護士に転じたが、若き外交官時代の経験もあってか、アラブや中東に対する関心を持ち続けておられる。

専門雑誌でコラムも担当していて、折に触れ、法律の話だけでなく、中東情勢のことについても書くことがあるという。現在、アラビア半島の南端にあるイエメンでは、同国の少数部族で、イスラム教シーア派系のホーシー派という聞きなれない一派が政治の前面に躍りだし、シーア派が政権を牛耳るイランとの関係が深いとされることから、内外のインテリジェンス(情報機関)がその動向に注意を払っている。恐らく、日本では1万人に一人も知らないであろうホーシー派のことをTさんに尋ねると、イエメンの歴史、風土から説き起こして、興味深い説明が長く続いた。ちょっとした大学の研究室での問答となった。

大学の研究者にとどまらず、企業の駐在経験者からもアラブや中東のことを多く聞きたいと思ったものだ。そうした知識、情報の幅広い共有が日本のアラブ・中東理解の大きな助けになるのは間違いないと確信する。

《アジアの今昔・未来 伊藤努》前回  
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