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第191回 タイの氷屋さん繁盛記 伊藤努

第191回 タイの氷屋さん繁盛記 伊藤努

第191回 タイの氷屋さん繁盛記

最近、国際機関「日本ASEANセンター」と在京のタイ国大使館経済投資事務所(BOI東京事務所)の誘いもあって、駆け足でタイの投資環境を視察する機会に恵まれた。視察先の進出日系企業の業種はさまざまだったが、変り種は千葉県に本社がある製氷業のK社の工場だった。言ってみれば、日本の氷屋さん(もちろん業界大手だが…)がわざわざ遠い南国のタイにまでやって来て工場をつくり、お馴染みのビニール袋詰めの氷をバンコクやその周辺のスーパーマーケット、コンビニに出荷しているのである。

バンコク近郊の工業団地の一角にあるK社工場を日本人とタイ人の幹部に案内してもらったが、もう一つ驚かされたのが、氷の原料(素材)と独特の製法だった。

ロックアイスの製造工場

普段、ウイスキーあるいは焼酎のロックや水割りを飲んでいるご同輩もご存知のあのロックアイスである。迂闊にも、日ごろ世話になっているこの氷の製造法を知らなかったが、何と、原料の水はミネラルウオーターの水源などから引いてきたものではなく、工場の近くを流れる大河チャオプラヤ川(旧名メナム川)の濁った水なのである。この川の水はそれほど汚くはないが、上流から運ばれる土なども含んでいるため、かなり濁っており、川底は全く見えない。

もちろんそのままでは飲用に適さないが、工場の作業工程で浄化・浄水し、氷へと凍らせていく段階で、ばい菌や有害物質といった不純物や臭い、臭みは100%除去され、透き通った見事なロックアイスが出来上がるのである。日本でも老舗として知られるK社独自の冷凍法を使った、企業秘密の技術によって製品は仕上がるのだった。

洪水時の模様を説明するK社工場の幹部

タイなど東南アジアを旅行する外国人観光客や在留邦人にとって、口に入る氷は非常に注意が必要な飲料品である。筆者の家族も昔、タイの有名な観光地プーケットのちゃんとしたレストランで注文した果物ジュースに入っていた氷が原因で次々とお腹をこわし、ホテルで数日間静養を余儀なくされた苦い経験がある。筆者だけがそのとき、ビールを飲んでいたので難を免れた。

そんな記憶があっただけに、濁ったチャオプラヤ川の水を原料とするK社製のロックアイスが品質、味ともすこぶる好評で、毎年、増産に次ぐ増産と聞いてびっくりしたという訳である。ビジネスチャンスはどこに転がっているか分からないと改めて実感した海外進出日系企業の工場視察だった。

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