第192回 ラマダン中のパキスタンでかいた恥 直井謙二

第192回 ラマダン中のパキスタンでかいた恥
イスラム国での取材中は酒類が飲めず、つらい思いをした事はすでに書いた。
酒ばかりでなく昼間は国際ホテル以外のレストランは閉まっていて、食事を取るのも不便だ。パキスタンなど比較的穏健なイスラム国では、ホテルの個室に限ってビールが飲めるし、レストランによってはビールを「お茶」と称して出してくれる粋なレストランもある。
カラチではひいきにしていた韓国料理店も店主のおばちゃんが韓国人だった事もあり、そっとビールを出してくれた。おばちゃんはまず2階に上がるように指示する。
ビールを大きな急須の中に入れ、茶碗をつけて運んできてくれる。外見はあくまでもお茶だ。そんな親切なおばちゃんにお礼をしたくなり、何か欲しい物がないかと聞いたら、ワカメが欲しいと言う。韓国料理には欠かせないワカメはパキスタンでは手に入りにくいのだ。駐在していたバンコクでワカメを手に入れ、取材のついでに差し入れた。イスラマバードでの長い取材を終え帰路についた時の事だ。これからやっと酒を自由に飲めると言う開放感に浸りながらカラチ国際空港に向かうパキスタン航空の国内便に乗り込んだ。パキスタン人の乗客とともに空港バスをおり、タラップに向かって列を作っていた。パキスタン航空の職員が乗客一人一人に弁当を配っていた。当然、筆者ももらえるものと手を出すとパキスタン航空の職員は首を横に振って弁当をくれない。

全員に配っているのに、弁当ひとつもらえない事に妙に腹が立った。筆者ひとりが弁当をもらえないのは日本人だからなのか、人種差別ではないかと職員にクレームをつけたが、やはり首を振って弁当をくれない。腹いせに弁当を持って搭乗するパキスタン人をカメラにおさめた。(写真)見ると乗客全員が小脇に弁当箱を持っているのが分かる。
あきらめて搭乗するとまもなく飛行準備が整い、パキスタン機は夕日を浴びてイスラマバード空港を後にした。水平飛行に移り、地平線の彼方に夕日が沈むとほぼ同時に機内でブザーがなった。静かだった乗客のほとんどが弁当を開け食べ始めた。その姿を見てラマダン中だった事に気がついた。
パキスタン航空は飛行中に日が沈み、ラマダン中のイスラム教徒も食事が出来るようになる事を予想し、搭乗前に弁当を配っていた事が分かった。日本人である筆者には弁当は必要ないとして渡さなかっただけなのだ。
イスラム教に対する理解もなく、たかが弁当ひとつで腹を立てた事が恥ずかしくなった。
写真1:弁当を持って搭乗するパキスタン人
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