第17回 首都圏から気軽に自然が満喫できる山 明智山 森正哲央
第17回 首都圏から気軽に自然が満喫できる山 明智山
交通の便が良く、遠く江原道に行かないでも、首都圏から豊かな自然が満喫できる山が京畿道には数多くある。そこで今回はそんな山の一つ、ソウルの北東55キロ、京畿道加平郡に位置する明智山(1,267m)を紹介したい。加平川を挟んで京畿道では最も高い華岳山(1,468m)と対峙し、春にはツツジが、秋は紅葉が美しく、1991年には明智山郡立公園に指定されている。北漢江が流れる加平郡は、ソウルと春川を結ぶ京春国道(46号)、京春線の沿線で、交通の便が良い。ソウル・龍山駅と春川駅を時速180キロで結ぶ准高速鉄道「ITX-青春」も走っており、ソウルから加平まで約40分しかかからない。今回は益根里渓谷(明智渓谷)を登る往復6.25キロのコースを歩いた。所要時間は5時間余り。
前日は加平に泊まり、翌朝、加平バスターミナルから9時半発のバスに乗ると、車内はザックやストックを持った登山客で満席だった。地図を見ていると、隣に座っていた年配の男性が話しかけてきた。今朝ソウルから列車で来たばかりで、同じルートで明智山に登るという。加平川に沿って北上すること30分、「明智山入口」で下車する。雲ひとつない天気に恵まれ、益根里駐車場から望むと、色づきはじめた山並みの先に、明智山の山頂部が小さく頭を覗かせていた。
駐車場前の食堂で遅い朝食をとってから出発する。明智山は、山腹にとりかかるまでのアプローチが長く、車も通れそうな冗長な未舗装の林道が1時間余りも続く。道端のところどころに、紫の薙刀香薷が群生し、唇形の花を咲かせていた。しばらく進むと弥勒仏が立つ昇天寺、さらにその先で明智瀑布を通過する。明智瀑布は、登山道から50メートルほど降りると姿を現し、絹糸(韓国語でミョンヂュシル)ひと巻きを解いても、その先が底につかないほど長いことにちなんで名がついたというが、とてもかわいらしい滝だ。
三叉路を過ぎたら本格的な登りとなる。指導標には「稜線経由2.8キロ、渓谷経由1.8キロ」とあり、直進して渓谷経由で登り、帰りに稜線を通ることにした。階段がよく整備されているが、上りはかなり急で、汗が吹き出る。階段を登りきると樹木に覆われた平らな尾根にとびだした。その東端の小ぢんまりとした岩場が山頂で、“明智山山頂”の石碑が立っている。西には明智山より201メートル高い華岳山(山林庁指定・韓国百名山)が霞む。南に目を転じると、尾根伝いに1キロ先に明智山2峰(1,260m)、5キロ南に恋人山(1,068m)が続いている。恋人山は1999年、公募で名前を決めた珍しい山で、“愛が実る山”という意味が込められている。2005年に恋人山道立公園に指定され、ツツジ祭りが開かれるなど地域一体で“売り出し中”だ。山好きが多い韓国では、山は日本以上に大切な観光資源となっている。
帰りは稜線経由で道大里へ戻る。行きも通った三叉路まで下降し、再び渓谷沿いの林道をのんびり歩く。明智山は山腹に取り付くまでの距離が長く、全体的に少し単調とも感じないでもない。だが、緑豊かな山なので、新緑が芽吹く春や、豊富な色彩で染まる秋には、味わい深い静かな山行が楽しめる。
●アクセス(バス)
・加平バスターミナル~ヨンス洞(明智山) 1日6本・6時20分~19時20分
・ヨンス洞~加平バスタミナル 1日6本 7時~20時20分