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第575回 最近のランキングで知る日本の「立ち位置」 伊藤努

第575回 最近のランキングで知る日本の「立ち位置」 伊藤努

第575回 最近のランキングで知る日本の「立ち位置」

極東にある島国のわが国が海外でどのように見られているのか。あるいはわが国の長所や短所などについて知ることの一つの物差しとして、外務省が実施している海外対日世論調査などがある。また、比較的目にする機会が多いランキング調査として、世界各国の旅行と観光開発に関する番付や報道自由度ランキングなど、具体的な分野に特化した国際組織・団体の調査結果も定期的に発表されている。

 

誰しも、他人の視線や評価は気になるものだが、これらのさまざまな調査でもその評価に驚かされることが少なくない。今回は、最近相次いで報道された三つの興味深い調査結果や国際的ランキングを紹介しながら、わが国が現在、アジアや国際社会でどのように見られているかを考えてみたい。

 

インドネシアやタイ、ベトナムなど東南アジア諸国連合(ASEAN)各国は日本と歴史的に関係が深く、経済的つながりも強い国々だが、外務省が5月下旬に発表したASEANの対日世論調査(今年1月に実施され、軍政下のミャンマーは今回除外となった)では、「主要20カ国・地域(G20)の中で今後重要なパートナーとなる国はどこか」との質問で、中国が48%で1位となり、日本は43%で2位だった。米国に次ぐ経済大国となって久しい中国が日本を上回って1位となったのは2007年度以来だが、わが国が3年前の前回調査に比べ51%から8ポイント減と大きく落ち込んだのは気掛かりだ。

 

日本はASEANを含むインド太平洋地域の各国との外交・経済関係を重視しているが、中国が得たポイントが前回調査とほぼ横ばいだったことと比べると、日本を重要なパートナーと選ぶ東南アジアの人々が減っているのは、期待度が落ちる理由や要因が何かあるのだろう。何が欠けているのか、一度立ち止まって一考してみる余地がありそうだ。

 

一方、スイスに拠点を置く世界経済フォーラム(WEF)がほぼ同時期に発表した2021年度の旅行・観光開発番付では、日本が初めて首位に躍り出た。この番付は、世界117の国・地域が対象で、2年に一度まとめられている。日本はここ10年ほど、観光立国を目指して外国からの訪日客誘致に官民一体となって取り組み、順位を上げてきたが、今回の予想外の高評価は、新型コロナ禍による壊滅的打撃から立ち直り、業績回復を急ぎたい観光業界には追い風となりそうだ。

 

多くの専門家が幾つかの項目を精査した上で点数化し、順位を付けるこの旅行・観光開発番付で、2位は米国、3位はスペインであり、米欧の観光大国を押さえての初めてのトップの座は、航空インフラと文化資源の二つの項目が高い評価を得たためという。2020年初め以来の新型コロナ禍の影響で、外国からの観光客は激減したが、定評のあるWEFの好意的な評価をバネに、コロナ禍以前のように観光立国に向けた道を着実に歩んでいきたいものだ。

 

旅行・観光分野での高い評価とは対照的に、かなり厳しい評価を受けたのが国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」(RSF、本部パリ)が発表している世界各国の報道自由度ランキングだ。今年のランキングでは、対象180カ国・地域のうち、日本は昨年から四つ順位を下げて71位となった。北欧のノルウェーが6年連続で首位となり、ウクライナ侵攻に絡んで報道規制を強化したロシアは順位を五つ下げて155位、中国は二つ順位を上げて175位だった。ちなみに最下位は179位の北朝鮮だ。

 

「国境なき記者団」は日本の報道界の現状について、大企業の影響力が強まり、記者や編集部が都合の悪い情報を伝えない「自己検閲」をするようになっている国の一つと指摘している。耳が痛いが、世界各国のメディアを公正に見ている専門家の組織だけに、正鵠を射ているのだろう。

 

わが国でも近年、インターネット情報の氾濫といった現象の裏返しとして新聞やテレビなど既成メディアに対する不信、若者のメディア離れが広まりつつあるとはいえ、記者たちの報道活動を通じて「国民の知る自由」がかなりの程度は実現されていると考えてきた同業出身の筆者にとっては、予想外の低い評価にはいろいろと考えさせられた。だが、「たかがランキング、されどランキング」と、ここは虚心坦懐に受け止め、わが身や日本という国の立ち位置を改めて見直すきっかけとしたい。



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