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チャイナ・スクランブル

鴻海集団・郭台銘総師の台湾総統選への出馬表明は大陸の”意思“か―その真意と背景探る(上)
2019-05-20. 日暮高則
 来年1月の台湾総統選に向け、7月に国民党の統一候補を決める予備選挙が行われるが、この争いに4月、突然、鴻海科技集団(フォックスコン、富士康)の総師である郭台銘(テリー・ゴウ)氏が加わる意向を表明した。鴻海は、日本のシャープを買収したことでも有名な台湾のビッグ企業で、郭氏自身は中国の習近平国家主席や米国のトランプ大統領ともサシで会えるほど親しい関係にある経済人だ。国民党ではすでに元新北市長の朱立倫氏、元立法院長(国会議長)の王金平氏が総統選に名乗りを上げており、そのほか、現高雄市長の韓国瑜氏も虎視眈々と狙っていると言われる。郭氏は出馬を決めたきっかけについて「媽祖の神のお告げあった」としているが、世論は冗談半分の受け取りようだ。果たして出馬の真意は何なのか。

「夢の中に媽祖(海の守護神)が現れた。そして、お前は媽祖の精神を受け継ぎ、苦しみの中にある人民のために良いことをしなさい、若者に希望を持たせ、台湾海峡両岸の平和と繁栄を支えるようにしなさいとのお告げがあった」。郭台銘氏は4月17日、出身地である新北市板橋区の慈恵宮(媽祖廟)を参拝し、こんな神掛かり的な発言をして突然、出馬宣言した。現場には多くの報道陣がいたというから、この宣言はメディア側に事前通知があったのだろう。体よく仕組まれた舞台装置である。その翌日、東部花蓮県で震度6・1の大地震が発生。台湾住民は、この地震を郭氏の出馬に関連付け、「神様を利用するようなことを言うから、神様がお怒りになったのだ」と八つ当たり。「台湾海峡の平和を言ったのなら、媽祖は、統一を目論む習近平主席の化身だったのではないか」との揶揄もあった。

この時点で国民党内では、すでに2人の総統選出馬表明者がいた。前回総統選で蔡英文現総統に敗れ、雪辱を期している朱立倫氏と、長年の政治生活の仕上げ、最後のチャンスととらえる王金平氏。朱氏は総統候補、党主席も経験した国民党中軸で、党内人気はまだ衰えていない。他方、王氏は外省人が多い国民党の中でも数少ない「本土派」で、対立する民進党との関係も良く、本省人の支持を集めやすい老練政治家だ。このほか、昨年秋の統一地方選(九合一選挙)で、メディアの集中的な関心を集め、民進党の地盤である高雄市の市長選で圧勝した韓国瑜氏も、いまだ正式表明はしていないものの、出馬することは間違いない。こうした有力候補者がいる中で、まったく政治経験のない郭氏が名乗りを上げたのは唐突だった。

郭台銘氏とはどういう人物か。1950年10月生まれで、現在68歳。両親は大陸の山西省から移住してきており、本人は外省人二世である。海事専門学校を卒業した後、一時船会社に勤めるが、独立心旺盛だったためか、やがて起業してプラスチック製品の製造、加工業を始める。なぜプラスチックかと言えば、郭氏が尊敬する「台湾の伝説的な経済人」王永慶氏(台湾プラスチックグループの創業者)が始めた事業であったからだ。だがその後、スマートフォンや薄型テレビなどの電子機器を受託生産する鴻海精密工業、鴻海科技(フォックスコン)を立ち上げ、生産拠点を大陸中国に置いて、企業規模を拡大した。2016年には、経営難に陥ったシャープを買収したことで鴻海科技集団の名は、日本でも一躍有名になった。米誌「フォーブス」によれば、個人資産総額73億米ドルで、台湾一の金持ちと言われる。

郭台銘氏の対中国スタンスは、将来的に中台統一を視野に入れる典型的な「一つの中国」派である。外省人家庭で育ち、大陸に進出し、主な経営基盤を置いていることからすれば、当然のことだ。彼は「天下雑誌」のインタビューで、一つの中国を認める1992年コンセンサス(92共識)を前提に、中台がそれぞれの国号「中華民国」「中華人民共和国」を示すという「一中各表」を支持する立場にあることを明らかにした。そして、その後の公開の場では、「大陸は中華民国の存在、現存する事実を正視すべきだ。台湾は中華民国の一部分であり、中華民国は中華人民共和国の一部分ではない」とも強調した。

この郭氏の言い方は、要は「二つの中国」という考え方で、「一中一台(一つの中国、一つの台湾)」と同様に、大陸は従来から受け入れないことを再三表明している。92年当時、海峡両岸の代表は、確かに「一中各表」について、「一つの中国を認めることが重要。一つの中国が何を指すかはそれぞれが解釈する」というあいまいな形で決着させた。だが、大陸側はその後、「92年コンセンサスはあくまで一つの中国を認める」ということで、中華民国というもう一つの「国家」の存在は認めないとの立場を明確にした。中華民国の存在まで大陸側が認めたというのは、台湾側の勝手な解釈なのだが、中国側はその点を強くとがめたりはしてこなかった。

両岸の関係について、今回、国民党の他の候補者は92年コンセンサスを認めるとしながらも、「一中各表」にはあいまいな姿勢を貫いている。どちらかと言うと「現状維持」的な立場であり、この辺りが将来の中台統一をも視野に入れる統一派、郭台銘候補との違いなのかも知れない。では、大陸側が強く求める「一国二制度」について、郭氏はどう考えるのか。中華人民共和国を前提とした一国二制度に台湾住民の4分の3が反対しており、郭氏も他の候補者と同様、受け入れないとのスタンスを取っている。それでも、ビジネスマンはもともと自社の儲けを優先し、“国益”、つまり台湾の利益は考えない人々だとみなされているだけに、外省人の郭氏が本心から一国二制度に反対であるとも思われない。